皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第26回 特別編・『出版文化人物事典稿2023/放談・出版ジャーナリズムに出版史を求めて』を夏コミで出しました

河原努(皓星社・近代出版研究所)

 

■夏コミ(「コミックマーケット102」)に参加しました

先だって(令和5年8月13日)、書物蔵・近代出版研究所として「コミックマーケット102」、いわゆる“コミケ”に参加した(※1)。
“コミケ”初参加は昨年の夏。参加する以上は新刊がないとまずかろうと初回は「近代出版研究叢書・資料編1」と称して『「出版年鑑」掲載全訃報一覧――昭和平成期 著作家・学者・出版人7000人』を、冬には「資料編2」の『戦時・占領期出版史資料索引――戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』を出した。

 

※1 コミックマーケットは夏と冬の年2回で、夏開催の通称が“夏コミ”になる

 

■夏コミの新刊は……

今年の春に発行した『近代出版研究』2号に埋め草として「当研究所発行のシリーズ「近代出版研究叢書・資料編」について」という広告文を書いた際、末尾にこう書いた。

今年の夏コミ新刊として準備中の第三弾は、今度こそ『近代出版人訃報一覧(仮)』を発行する(はず)。業界紙誌「帆刈出版通信」「文化通信」「トーハン週報」や戦前の愛書誌「図書週報」、業界団体会報「出版クラブだより」「書協」、それに『出版百年史年表』や出版平和堂の顕彰者名簿などに掲載された出版人の訃報を統合・再編成する予定です。また、少しずつ書きためている『出版文化人物事典』増補改訂版の原稿を年一回くらいのペースで公表することも考えております(無理にでも〆切を作らないと人は作業しないので……)。ご教示・ご叱正のほどよろしくお願いいたします。

なんだかんだと忙しくて気がつくと早や6月、2ヶ月余りで『近代出版人訃報一覧(仮)』の準備をするには無理があった。とすると、次善の策は、書きためがある『出版文化人物事典』増補改訂版用の原稿をまとめるしか選択肢は無い。しかし、改めて書き終えている項目を数えて見るとたかだか120人分、Wordに流し込んでみても50ページくらいにしかならない。中途半端な人名事典なんてあまり意味が無い。売り物としては弱いので、何かを抱き合わせるしかないと考えると……4月末に戸家誠さんが上京した際に録音した座談会を載せることを思いついた。

【図1】今回の新刊。左右両方から開くリバーシブル仕様です

 

■「出版文化人物事典稿2023」

本連載第1回にも書いたが、私が近代日本出版史の基礎情報整理を始めたのは前職で『出版文化人物事典─江戸から近現代・出版人1600人』(日外アソシエーツ、平成25年)という本を作ったことによる。同書出版からまる10年。基礎情報を整理した上で原稿を書くつもりでいたが、その整理も余り進んでおらず。本連載のために書き下ろした人物なども含め、「完成」テキストファイルに振り分けてあった人物は120人。ちょっと少ないですよねー。ちなみに120人の内訳は以下の通り。

相島敏夫、相田良雄、青木春男、秋田忠義、浅見敏雄、阿部英雄、阿部義任、尼子揆一、安斎利平、池沢丈雄、池田五郎、池田敏子、伊崎治三郎、磯貝憲佑、伊藤英雄、井上堅、井上喜多郎、今成弘、今西祐行、岩崎治子、岩野喜久代、岩野真雄、岩渕鉄太郎、上田龍夫、上原七五三造、宇野豊蔵、大高利夫、大西和男、大矢金一郎、大輪盛登、岡野英夫、岡原佐太郎、岡本経一、岡本芳雄、岡本良雄、小川道明、小梛精以知、小沼福松、小野忠重、小野高久良、大和岩雄、大和和明、海口守三、風間歳次郎、樫原雅春、北野民夫、北村秀雄、窪田範治、小坂佐久馬、後藤八郎、小西武夫、小林茂、近藤源一、近藤安太郎、斎藤雄吉、坂酉次、坂本金太郎、笹沢健、佐々部承象、佐野秀文、椎橋博、柴田信、嶋中晨也、新川正美、鈴木愛三、瀬川雄章、関戸恵美子、多賀義勝、高倉嘉夫、高橋寛衛、高橋松之助、高森栄次、宝田正道、竹内和志雄、武正博、田所太郎、田村喜久蔵、塚田豊、土井庄一郎、外川晋吾、外川文平、富本一枝、中尾峰次郎、中岡孝正、長岡光郎、南雲忠勝、南雲正朗、西館一、服部幾三郎、花村奨、林勲、日暮二郎、広瀬徳二、藤川武男、藤田貞夫、藤村耕一、藤原楚水、堀内末男、堀内俊宏、本郷隆、本郷富士子、前田寛、前田隆一、増永善吉、水上勉、向坊寿、村谷正、目黒三策、矢島一三、谷津一男、柳田邦夫、山崎清一、山村正夫、山本重彦、横山恵一、横山茂、横山真一、料治熊太、和木清三郎、渡辺龍策

うち50人ほどは『出版文化人物事典』のリライトになる。先頭に出てくる「相島敏夫」を比較すると、こんな感じ。

『出版文化人物事典』版
昭和6年朝日新聞社に入社、18年日本出版会に転出するまで学芸部記者を務めた。同会雑誌第一課長、日本出版協会雑誌課長、事務局次長などを経て、24年法政大学出版局長。学術専門書、教科書、翻訳書を積極的に出版した。また、科学評論家としても活躍した。共著に「こんなことがまだわからない」などがある。

「出版文化人物事典稿2023」版
昭和6年朝日新聞社に入社、18年日本出版会に転出するまで学芸部記者を務めた。同会雑誌第一課長として雑誌統制に従事。戦後も日本出版協会雑誌課長、調査室長、事務局次長を歴任、石井満会長を支えた。24年法政大学出版局創立とともに局長に就任。創立早々、米国人ジャーナリストのジョン・ハーシーによる原爆被害記録『ヒロシマ』を出版して話題を呼ぶ。同局から学術専門書、教科書、翻訳書を積極的に出版、47年退任。科学解説家としても活躍し、NHK放送文化賞などを受けた。日本出版クラブ理事。著書に『月を歩いた二時間十五分』などがある。

そして次の項目を設け、どのような材料を典拠として項目を書いたかがわかるようしている【図2】。

[訃報]『出版クラブだより』1973.3.10
[事典]出版文化2013;出版平和堂;「出版年鑑」昭和49年版
[書籍]『現代の出版人五十人集』出版ニュース社/1956.7
[雑誌]「相島敏夫氏の進退」(『帆刈出版通信』1948.3.11)

本当は「収録人名一覧」「人名索引」「出版社・団体索引」も付けたかったけど、今回は無理でした。そして、さらに「抱き合わせ」にしたのが、次の記録である。

【図2】『現代の出版人五十人集』と『帆刈出版通信』の相島敏夫に関する記事

 

■「放談・出版ジャーナリズムに出版史を求めて」と「「出版ジャーナリスト」「出版評論家」の語誌――放談会記録を読んで」

座談の中心になってくれた出版流通史家の戸家誠さんは取次(大阪屋)出身、趣味で出版史研究をなされており、1970年代から出版業界を内側から見てこられた大先達。お話の中には、同じ大阪屋出身の荘司徳太郎や、出版評論家の小林一博といった人々が同時代人として出てくる。この座談会は昨年の11月、近代出版研究所の面々と一緒に奥多摩ブックフィールドからの帰りの車中の雑談の中で「出版ジャーナリストにそもそもどういう人がいて、どんな仕事をしたか、それをどう評価するか、というような文章って読んだことないですよね。荘司さんや小林一博さんの思い出話も含めて、戸家さんからそういう話が聞きたいです」とお願いしたのがキッカケである。それで次の上京となった今年4月下旬に皓星社に来て頂いて、机の上にいろいろと本を並べ、「出版ジャーナリスト列伝」と称して座談を録音した。
タイトルが「座談」ではなく「放談」になったのは、記憶で話しているところが多く責任が取りづらいのと、みんな思っていることをあけすけに言いすぎたためだ(笑)。市販する『近代出版研究』にはちょっと載せづらいところもあり、同人誌での収録と相成った。もし世の中に広く流通する媒体に再録する場合には、もっと手が入るはず。なお、森さんの発言が旧仮名遣いではないのは、〆切間際になっても森さんが抱えていた原稿の回収ができず、慌てて手元の原稿に注を付けて入稿したため。納品されてきたものを校正を得意とする妻に見せたら「あれもこれも」と誤植の指摘を受けた。いや、森さん原稿を回収してから妻に読んで貰おうと思っていたけど、慌てていたから素読みを頼むのを忘れていたのよ……。4人(実質3人)が目を通しているから大丈夫かと思っていたけど、校正者、大事!
また、「座談」→「放談」となったのも〆切間際で、結果、小林さんの記事タイトルが目次と本文で「座談会記録を読んで」と「放談会記録を読んで」に割れてしまった……これも編集者のミス。慚愧に堪えません。

 

■新刊を含めて、通販対応中です。

今回紹介した新刊『出版文化人物事典稿2023/放談・出版ジャーナリズムに出版史を求めて』を含め、今までの「近代出版研究叢書・資料編」、『「出版年鑑」掲載全訃報一覧――昭和平成期 著作家・学者・出版人7000人』『戦時・占領期出版史資料索引――戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』の2冊とも、皓星社のウェブストアで販売中です。
以前は小林さんの生家であるプラモデル店の社史『ピンバイス40年史 あるプラモデル屋の歩み』や、私が筆名で作った『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』も取り扱っていましたが、品切れしました。どれだけ売れるかわからない同人誌は増刷しづらいのです。気になる方は在庫があるうちにお買い上げくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

 


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