皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第10回 風俗本(エロ本)を調べるには――国会図書館の蔵書を中心に

小林昌樹(図書館情報学研究者)

はじめに

■ココロに残るレファレンス――『さぶ』や『アドン』の欠号は?

公務員としてだけでなく、専門職種としての守秘義務は尊いのであまり具体的に書けないのだが、ある時、「『さぶ』とか『アドン』などの欠号はどこへ行けば見られるのか?」とカウンターで聞かれたことがある。

『さぶ』は「男と男の叙情誌。ホモセクシャルな官能小説、グラフ、エッセイ、情報等を掲載」していた雑誌で(『雑誌新聞総かたろぐ』1985年版)、『アドン』も同類である【図10-1】。

その時、頭に響いたのは「あっ、そうか。長年にわたる自分の疑問。どうして下品と思われる資料も国立図書館で保存されるのか、その答えがようやく見つかった。実際に借りに来る人がいた」というココロの声だった。お客さんはおそらくLGBT史研究の史料として欠号を見たかったのだろう――そこまでは聞かなかった。調べものの目的はあまり積極的に聞かない――ご存知のとおり、国会図書館はエロ本も集めている。理論上、調べる対象としてだろうとは思っていたが、それが実証された瞬間だった。

【図10-1】『雑誌新聞総かたろぐ』1985年版より『アドン』の項目

■用法上の注意――この項18禁

今回の記事では国会図書館(NDL)の風俗本コレクションを中心に、風俗本の調べ方・ゲットの方法について解説する。風俗本の歴史やジャンルも俯瞰し、自分がエロ本を調べなければならくなった際に困らない程度の全体観を得てもらう。しかし、エロ本は成人しか見てはいけないことになっているので、未成年はこの先、お読みにならないでほしい。

念のために言うと、ここでは実用書としてのエロ本でなく、主に研究・執筆参考用の資料としてのエロ本を説明する。そのためやや古い話が中心となる。直接的消費のための読書でなく、研究やライターのため、つまり生産的読書のための方法を説明する。消費的読書のためならば専門書店(後述)にあたられたい。

また「エロ本」という用語は直裁にすぎるので、NDLにあわせて適宜「風俗本」といった言葉を使う。単体だと髪型や服装などのことを意味しているようにも見えるが、同義語と考えていただきたい。

法定納本の意義

■国立図書館には風俗本も集まる

NDLには本がなんでもある(ことになっている)。そこで論理上は風俗本もある。しかし、実際には20%程度しかないという計測結果がでており(注1)、一方でアダルトメディア研究家、安田理央氏に言わせるとそれよりずっと低いという。それでも通常の公共・大学図書館に風俗本がほぼないのに対して、法定納本で網羅的収集を標榜するNDLには図書館としてほぼ唯一この手の資料も集まっている。海外の国立図書館にもこの手のコレクションがある。

「エロ本」という言葉は「大震災後の新語」(『書物語辞典』1939)で「モダン語」だったが、次第に古典的な「好色本、春本、淫本」などもこう呼ぶようになったという(『図書・図書館事典』1951)。戦前の内務省では画像を「春画(春畫)」、テキストを「淫本」と呼んでいた。NDLでは1963年に独自分類(NDLC)を作るにあたり、当初「艶笑本」と呼んでいたが、途中で「風俗本」と呼び替えている【図10-2】。

【図10-2】国立国会図書館分類作成委員会資料no.28(昭和38.10.2)

 

・(注1)木川田朱美、辻慶太「国立国会図書館におけるポルノグラフィの納本状況」『図書館界』61(4) 2009.11

■国家百年の計――価値が判らないものもとっておく知恵

NDLに風俗本もあるという話を聞いた大昔から、ずっとその理由がよく分からなかったのだが、要するに下らない本、下品な本、未成年に有害な本でも年代を経ると資料としての価値が出る場合があり、それに備えるという意味がある。

戦前、帝国図書館は価値の判断を後世に委ねる資料を「乙部」(B級のこと)として保存しておいたが、百年たって明治百年ブームで利用の途が開かれ、レア資料がたくさん出てきてみな喜んだ。

一方で価値がないとされた「丙部」(C級)には紙製のおもちゃ類、すごろくが含まれていた。サブカル立国となった現代日本にそれらは良い資料となったはずだ。しかし、百年前の日本人に、日本がサブカルで世界制覇するなどと、どうして想像し得ただろう。想像できたとしても帝国臣民にとっては不名誉なことでしかない。価値観自体が転倒しているのだ。

漏れがあってもよいから国立図書館が全部とっておく(包括的収集)という国際的な慣例はこんな意味がある。風俗本が下るかくだらないか、同時代に即断すると、百年後、間違ったことに気づくだろう。大英博物館で江戸期春画の大規模な展示会があったのはつい10年前のことだった。

 

タイトルなどが判っていれば

■風俗本が既知文献の場合

『さぶ』とか『アドン』など、冒頭のレファ事例のように、あらかじめ調べるべき本のタイトルが明らかであれば、図書館学にいう「既知文献」ということで国立図書館のOPAC(いまはNDLオンライン)を検索すれば所蔵の有無がわかる。とりあえず、NDLサーチやWorldcatをタイトルや出版社名で検索すればよい。日本の国立図書館や北米やオセアニアの大学における日本研究コレクションにあるものがヒットするだろう。どう利用するかは個別に苦労しなければならないが。

しかし「未知文献」を探すのが、本当の探しものではあろう。その場合、専門の解説つき文献リスト(「解題書誌」という)や、コレクションを有する図書館で目録を分類や件名から検索するのが図書館情報学的な正解となる。

 

日本の風俗本コレクション

■国内の風俗本コレクションの概況

図書館などでこの種のコレクションを有する機関はほとんどない。ここに知る限りのものを列挙しておくが、やはり国会図書館(NDL)のものが大半を占める。

・NDLの「風俗本」

法定納本で自動生成されるコレクション。おそらく国内では最大。単行本だけで約3万冊(29408件、2023.11.11現在)ある。

・NDLの「大衆娯楽誌」の一部

雑誌の全容は不明確だが、とりあえずカストリ雑誌(後述)なども含む「大衆娯楽誌」に分類されているものは644タイトルある。さらに960タイトルある「漫画・コミック」誌のうち仮に1割がエロマンガ主体として、100タイトル以上のエロ雑誌を所蔵していることになる。

・NDLの「発禁本」

戦前発禁本の副本正本をあわせた2106件に「風俗壊乱」とされた本があるが、その一部は性風俗関係、つまりエロ本に該当する。

風俗資料館(東京都新宿区)

SM・フェティシズム専門図書館。会員制。蔵書量は1万7千冊という。

米沢嘉博記念図書館・現代マンガ図書館(明治大学付属)

同人誌即売会・コミックマーケット(コミケ)代表だった米澤嘉博のコレクション。戦前風俗本、カストリ雑誌、「三流劇画誌」、美少女マンガ誌を所蔵する。

城市郎文庫(明治大学和泉図書館)

発禁本コレクターの旧蔵書。約1万冊。戦前発禁本だけでなく戦後の刑法175条摘発本を含む。貴重書扱い。冊子目録『城市郎文庫目録』(2017)が出版されている。

・山本文庫(立命館大学社会学部)

『カストリ雑誌研究』著者、山本明が1970年代に集めたカストリ雑誌1300冊。閲覧は難しい

・福島鑄郎コレクション(早稲田大学)

戦後雑誌収集に生涯をかけた収集家によるコレクション。カストリ雑誌を多く含む。

・コミックマーケット見本誌

2007年段階で200万冊近いものがあり、そのうち何割かは性的表現を含む「エロ同人」だが、公開していない。

他にも個人が保有する趣味的・研究的コレクションを2,3知ってはいるが、ここには書かない。一般論として実用コレクションは当人の「性癖」に従ってとてもジャンルとして狭くなると安田理央氏が言っていた(直話)。研究には使いづらいだろう。

 

見たことも聞いたこともない風俗本を探す

■風俗本の解題書誌

しかし、そもそも何が風俗本なのかわからない場合に探す際にはどうすればよいか。何が風俗本か、特定のタイトルを知りたいこともあろうし、「美少女マンガ誌」といったジャンルとその代表的タイトル群、あるいは悉皆リストを入手したいといったニーズもあろう。

NDLオンラインの分類がうまく機能すればいいのだが、諸事情から限定的なので専門書誌に頼ることになる。とはいえ、風俗本の専門書誌に厳密に該当するものは多くなく、専門書誌として使えるもの【図10-3】を紹介する(「として法」)。

【図10-3】風俗本の専門書誌として使えるもの

〈全般を知る〉

・松沢呉一『エロスの原風景:江戸時代~昭和50年代後半のエロ出版史』ポット出版、2009

カストリ雑誌、吉原細見、自販機本、フレンチ・ポストカード、実話誌といった、出版形態ごとに展望してジャンルを把握できる。代表的な風俗雑誌『夫婦生活』や『漫画讀本』について詳述するとともに、梅原北明など特殊な出版人も立項。

・『日本昭和エロ大全(タツミムック)』辰巳出版、2020

戦後(昭和後期)が記述対象だが、いわゆる本を網羅するだけでなく、成人映画、アダルトビデオ、テレビ(お色気番組、CM)など他のメディアも広く抑えてある。各メディアごとに簡易年表があるのが便利。

・城市郎「発禁本」シリーズ(1999-2003)

城の発禁本コレクション全体を、コミケ代表だった米沢嘉博が構成して紹介する本。「書名・人名総索引」が3にある。

発禁本:明治・大正・昭和・平成:城市郎コレクション(別冊太陽)』平凡社 1999

『地下本の世界(別冊太陽.発禁本;2)』平凡社、2001

『発禁本 3 (別冊太陽)』平凡社、2002

『城市郎の発禁本人生(別冊太陽)』平凡社、2003

〈前近代のものを調べる〉

・白倉敬彦『絵入春画艶本目録』平凡社、2007

江戸期刊行の春画艶本(組物を含む)約850点を収録。ただし肉筆春画や春画のない艶本(好色本)は除く。全点に書名の読み、内題、改題、既刊復刻本などを記した簡単な解題を付す。うち約500点は図版も収録。排列は角書きを除く書名の五十音順。巻末に画師索引(五十音順)、春画艶本年表がある。

・林美一『林美一江戸艶本集成 総目録 (江戸艶本大事典)』河出書房新社、2014

約1000点の艶本、春画の解題書誌。原典からのオリジナル図版700点を収録。

・艶本研究刊行会編『日本艶本大集成』緑園書房、1959

平安朝の説話文学から昭和20年代の三島由紀夫まで、まんべんなくテキスト系を部分収録したもの。すべてに簡単な解題がつくので全体観を得るのに便利。戦前の特殊雑誌の解題もある。初版は風俗資料出版社(1953年)らしいが、紙型本(ゾッキ本――特価本――の一種)として広く普及したらしく、ほかに魚住書店版(1965)などがある。巻頭言に初代国立国会図書館長・金森徳次郎がことばを寄せているらしいが、後版では削除されている。

〈戦前のものを調べる〉

・斎藤夜居『大正昭和艶本資料の探究』芳賀書店、1969

葬儀社から古書店へ転業した古書コレクター、斎藤夜居よずえがまとめたハンドブック。宮武外骨、梅原北明といった戦前出版人や彼らの出した特殊雑誌に詳しい。ひとむかし前は風俗本研究の基本書だった。

・谷沢永一編・解題『性・風俗・軟派文献書誌解題集成』金沢文圃閣、2009-2010、全4巻

明治初めから1950年代までに出版された風俗本の網羅的な解題書誌として使える戦前の限定出版を復刻したもの。第4巻巻末に「収録書名索引」、「出版社(発行所)索引」あり。ただし第1巻所収「現代猟奇作家版元人名録」(p.83-108)のデータは4巻の索引に含まれないため、並行して検索しなければならない。

〈戦後のものを調べる〉

・長谷川卓也『押収本のカタログ:猟奇から愛のコリーダまで』名古屋豆本、1977

1947年1月から1976年7月までに刑法175条容疑で押収された市販本のリスト。解題はつかないが、戦後の網羅的リストは他にない。

■風俗雑誌の解題書誌

本来、風俗雑誌は風俗本の下位概念だが、便宜的に別に立項しておく。風俗に限らず雑誌は個人が長期保存するのが難しいため、機関所蔵のものを活用する必要が本来はある。

・『雑誌新聞総かたろぐ』メディア・リサーチ・センター、1978-2019

本来、広告を出すためのカタログだが、分類が十分に細かく、エロ雑誌を探すのに最も便利なツール。項目「0230 成人」(2004年版から「0230 アダルト誌」)に「成人、官能小説、各種風俗情報等」関係の紙誌が列挙される。成年コミック誌は「0240 漫画・劇画」(2005年版~「0240 コミック」)に含まれる。

・『戦後セクシー雑誌大全:実話と画報・篇』まんだらけ出版、2001

「日本セクシー雑誌主要出版社マップ」(p.20-23)が便利。

・山本明『カストリ雑誌研究 : シンボルにみる風俗史(中公文庫)』中央公論社、1998

戦争直後の俗悪雑誌とされる「カストリ雑誌」の研究書。巻末の年表が貴重だが、元版(出版ニュース社、1976)のほうがタイトルがゴチック体でリストとして使いやすい。

・安田理央『日本エロ本全史 = All about Japanese Porno magazine』太田出版、2019

サブタイトルにあるように雑誌の解題書誌。1946年から2018年まで100点を採録するが、70年代以降が多い。

■エロマンガの解題書誌

・新野安、氷上絢一編著、永山薫[ほか]著『エロマンガベスト100+ = THE 100 BEST ERO-MANGAS』三才ブックス、2022

1970年代以降のエロマンガ100点を時代順に排列し解説する。コラム記事「エロマンガ誌の世界」で十年ごとの雑誌概観がわかり、また、巻末に有名な『シベール』(1981)以降の同人誌も解説する。エロマンガ・アニメは英語で「hentai」と呼ばれるようになった。

1970年代隆盛を誇ったエロ劇画については、『三流劇画の世界(別冊新評)』(新評社、1979.4)ぐらいしか思いつかない。米沢嘉博『戦後エロマンガ史』(青林工藝舎、2010)も参考になろう。

■風俗本を使った研究

風俗本を使った研究書も文献典拠があるので結果として書誌的に使える。いくつか代表的なものを紹介しておく。

・赤川学『セクシュアリティの歴史社会学』勁草書房、1999 明治の性科学書『造化機論』が風俗本として使われた件など。

・稀見理都『エロマンガ表現史 = The Expression History of Ero-Manga』太田出版、2017

・大尾侑子『地下出版のメディア史:エロ・グロ、珍書屋、教養主義』慶應義塾大学出版会、2022

 

NDLの風俗本を探す

ここでは国内最大のコレクションを有し、なおかつ公開されてもいるNDLで、そのOPAC(オンライン閲覧目録)を使いエロ本の検索集合を作る方法について述べる。ただし、このジャンルの納本率が出版全体の2割以下でしかないことには注意。なお、裁判で「わいせつ物」と確定した資料は見られない(NDLの「名誉毀損、著作権侵害等のある資料の取り扱いについて」を参照)。実態については情報公開制度を活用した梅宮修二『とある国家の禁書目録:国立国会図書館資料利用制限措置の実態調査及び刑法第175条による二次元へのわいせつ規制に対する影響の分析』(同人誌、2022)を参照のこと。

■NDLオンラインで風俗本を検索するには

NDLで本を探す場合には、図書、雑誌新聞、その他の3つにわけて探す。まず「図書」(これはNDL用語で単行本のことだが、年鑑や不定期刊の逐次刊行物、ムックも含むことがある)から。

◯図書

1964年、国立国会図書館分類表(以下、NDLC)の簡易整理資料の一項目として「Y85 風俗本」が立項され【図10-4】、当館における風俗本の存在が明示的になったが、適用実績にブレがあったり、関連項目との役割分担が不明確だったりして、他の項目も検索する必要が残る。

【図10-4】国立国会図書館分類表より

 

a-1. 現代の風俗本(1964年以降受け入れ)

NDLオンラインの「詳細検索」画面で、請求記号に「Y85-*」と入力して検索する(*をつけて前方一致検索になる)。分類に「Y85」を入れて検索してもよいが、1000点ほど漏れが出る。

a-2. 「成年コミック」:1992年~

網羅的ではないが、1992年頃から書誌データの注記欄に「成年コミック」と記載され始めた。NDLオンラインで検索する場合は、キーワード欄に「成年コミック」と入力して検索する。分類Y84などの大人マンガ扱いのものが出る。これ以前は出版社や専門書誌などを使って検索する。

a-3. 「娯楽的・風俗的写真集、画集」(Y89):2002年以降受け入れのもの

NDLCで「KC726」、「KC727」、「YP16」、「YQ11」など芸術分野の下位項目に分類されている人物写真集と、「Y85」に分類されているヌード写真集の中間にあたるアイドル写真集などが分類されている。NDLオンラインで検索する場合は、「詳細検索」画面の分類欄に「Y89」と入力して検索する。これでヒットするもので請求記号が「YU47」で始まるものはDVDなどとのセット出版である。明確にエロ本でDVDなどと組み合わせの写真集は「YU31」で検索する。

b.戦後の風俗本(1948〜1964年以前受け入れ)

分類から一括して検索できないので、専門書誌を参照する。

c.戦前の風俗本(1923年〜)

発禁本のコレクションがあり、その半分が「風俗壊乱」と思われる。正本には「風俗禁止」などの押印があるので【図10-5】「風俗壊乱」か「安寧秩序紊乱」か判るが、判らなければ国会図書館員がこっそり造った昭和書籍雑誌新聞発禁年表』を参照する。

【図10-5】小松みどり『情艶 第1輯』黎明閣、1928

ちなみに戦前、娯楽的写真集は出版されていなかったという(秋山正美『古本術:売るための買いかた』夏目書房、1994)。

◯雑誌・新聞

風俗雑誌は、NDLCで「ZY11 大衆娯楽誌」もしくは「ZY12 漫画・コミック」に含まれるが、抽出が難しいので『雑誌新聞総かたろぐ』などの専門書誌を見るのがよいだろう。

数はずっと少ないが新聞も同様で「ZZ33 芸術・娯楽・スポーツ」に含まれる。新聞54紙の復刻『カストリ新聞:昭和二十年代の世相と社会』(大空社、1995)が参考になる。

◯その他

・府川充男コレクション(請求記号:Y811-3)

準コレクションとなっている府川充男氏(印刷史研究家)による寄贈資料に、いわゆる「ビニール本」9点が含まれる。図書別室で資料請求・閲覧する。

・東京都の有害図書

1964年から指定された1120冊が1981年に寄贈されたが「当分公開いたしません」(『朝日新聞』1981.7.7)ということで閲覧できない。当時の記事では『百万人の夜』やビニール本もあるという。近年の記事は「国会図書館”地下コレ”『不健全』本も収集『時代の変遷分かる』」(『東京新聞』2009.1.6)。

 

専門書店など

■専門書店

神保町には、風俗本も扱う専門書店がいくつかある。新刊なら芳賀書店アムールショップなどがある。古本は荒魂書店文献書院&ブンケンロックサイドといったところだろう。

資料として古い風俗本を収集したいのであれば、股旅堂の目録を取り寄せるとよい。

オンラインで買う場合にはヤフオクの「その他>アダルト」項目以下に「」がある。また日本の古本屋でもこれ系の扱いがあるが、ログインしないと結果表示されない。

■専門サイト

SMペディア:SM大百科事典

主要項目一覧に「SM関連出版:雑誌 – 出版社- 編集者」があり、SMに限らずエロ出版社、エロ雑誌一般を調べる際に参考になる。

■女性向け

私は男性なので不得意だが、当然、女性向けエロ本の調べ方もありえる。レディース・コミック、BLなどに特化した調べ方も必要だろう。例えば『雑誌新聞総かたろぐ』の当該項を丹念に見ると、レズビアン向けの雑誌が古くからでていることがわかる。

■動画(AV)について

2000年に納本制度がパッケージ系電子出版物にも拡張され、アダルトビデオ(AV)も自動的にNDLへの納入義務が法定された。それにあわせてNDLCでも、VHSでYL217、DVDでYL327といった分類項目が設定されている。しかし動画について私はよく解らない。

NDLオンラインを分類「YL327」で検索すると多少は納入されているようだが、年間300タイトル前後の実績で、とても少ない。これがどのように資料として使えるか、まだよくわからない。

 

職業倫理のはなしあれこれ

■ココロに残るレファレンス

司書(調べものをやるひと一般でもよい)の成長にとって重要なのは、ニーズの多いレファレンスではなく、ココロに残るレファレンスである。振り返ってみると、そこには意外な論点や解決法、自分の成長点といったものが見つかる。それがたとえ未解決のものであってもだ。風俗本の資料性について改めて言語化するきっかけになったのが、冒頭に書いたカウンターでの質問であった。

■セクハラ避け呪符として

たまに、純粋な(?)セクハラとして風俗本のことを聞いてくるユーザがいる。さすがに永田町のNDLまでわざわざ来る人に多くはなかったが、それでも一度、見かけたのですぐ引き取った憶えがある。第一線の図書館や書店ではそのような来場人も出現することだろう。

今回の記事はスジの悪い来館者に対する魔除け機能もある。レファレンスというのは本来、セルフでやるものなので、本人がちゃんと自分で調べられればそれが一番よい。司書や書店員が風俗本について聞かれて困った場合には、この記事を示して自分でやってもらえばよいだろう。

現役時代、ずっとこの種の調べ方案内が必要だと思ってきたが、今回ようやく公開できて本当に良かった。

■調べるものの上品下品について

これに関連して司書側――それを所蔵する国会図書館員は特に――風俗本閲覧者も他の資料閲覧者と同じように対応すべきだろう。「請求された資料が◯◯だから」――◯◯には何を入れてもよい――という理由で不親切にしたり、道徳的に劣位に置いたりする必要は全くない。心したいものだ。見せられないものは不開示理由を明示して見せなければよい。

■マジメなことを不真面目に、不まじめなことをマジメに

尊卑、上品下品、マジメ不まじめ、趣味仕事、恥ずかしい恥ずかしくないなど、世の中にはいろいろな価値の序列があり、それに応じてそれぞれの主題の本も出る。調べもので重要なのは、逆さの観点で記述した本に目をつけておくことだ。

マジメなことを面白く記述した本、不まじめなことをマジメに分析した本があれば、それは先々で意外な調べものに使える。

例えば米国議会図書館の件名細目に「-humor」というものがあり、「library science — humor」で検索すると、図書館学ユーモアについての本がいくつか見つかる。これらのうちの一つが、図書館学の裏ハンドブックにまで発展して、面白い事実がいろいろ拾える、といった具合である。今回も、エロ本についてマジメに論じた本がエロ本の解題書誌として得難い機能を発揮している。

 

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。

 

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