皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第9回 『ずるい検索』? いやいや、まっとうな――『調べる技術』関連書を紹介する

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■「この商品に関連する商品」に読むべき本は全部あるか?

Amazonなどで本をクリックすると「よく一緒に購入されている商品」といったものが表示される。拙著『調べる技術』をクリックすると【図9-1】のようになる。

拙著の入門的な位置づけにできるとAmazon評で書かれた『調べものに役立つ図書館のデータベース』や、ここで紹介する『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』が他のものとごっちゃに一応表示される。大いに結構なのだが、類書としてもう1冊紹介したいものはここに表示されない。ただ人間が本を紹介するという活動も、自動推薦システムもひとしく必要なのだと思わされる。

【図9-1】

■買って損はない関連書は2冊

今回は拙著の関連書を2冊紹介する【図9-2】。拙著を読んでそれなりに面白いと思った方なら、買って読んで損はないだろう(読書猿さんの『独学大全』も独学技法がてんこ盛りで損はないと思うが、主題が拙著とかなりズレる)。

【図9-2】類書の三冊

類書にもいろいろな方向性がある。同じ主題で入門者向け、ジュニア向けといったもの。大人向けで同じ主題でも若干、フォローする知識ジャンルがズレるもの。これも想定読者がズレているためだったりする。タイトルにある「◯◯のための」というのがそれで、図書館情報学では「バイアス・フェイズ」(偏向の相)という。

図書館で本を分類する際に、バイアス・フェイズは基本、無視して分類記号を付けることになっている。だから、子どものための調べる技術も、ビジネス人のための調べる技術も、ジャーナリストのための調べる技術も、基本的に同じ分類記号が付けられ、同じ書棚に並ぶはずだ。しかし実際はそうでもないので、今回はその中から実際に自分が買って読み、勉強になった2冊をご紹介。

■OSINTの教科書――熊田安伸 著『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』

拙著が出た直後に出たのがこの本である。

・熊田安伸『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』新聞通信調査会、2022.12

237ページのふつうの本なのに価格が700円(税別)と通常の1/2に抑えられているのは、公益財団法人が出版しているかららしい。

取り扱っている内容は次の通り。1章から8章までの章名が、次の事柄「を調べる」となっている。

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1 国や自治体の事業

2 公益的な法人

3 民間企業

4 不動産

5 個人の情報

6 乗り物や事故

7 サイトの情報

8 政治とカネ

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この本全体のコンセプトはジャーナリストが「調査報道」をするための手引書ということで、全体として真面目で重大な事柄を調べる技術集となっている。もっと象徴的にいうと調べる対象は「政治とカネ」がメイン。

けれど、この「政治とカネ」の調べ方、ふつうは取材やら行政への情報公開請求などで調べるところ、オープンソースでもかなり調べられるよというのを明かす本なので、我々、普通人、趣味人にも役立つノウハウが半分くらい含まれている。

オープンデータ、つまり公開情報で物事を調べることを諜報活動では、OSINT(オシント、オープンソース・インテリジェンス)と呼んでいる。諜報活動の方法は他に、SIGINT(シギント、通信傍受)、HUMINT(ヒューミント、尋問やスパイ活動など)といった種類がある。直接取材はHUMINTにあたるだろう。この本は取材源をオシントに限ったもの。

かねてより、レファレンス作業はオープンソースを使ったインテリジェンスそのものだと思っていたので、オシントの良い教科書が日本でないか探してきたのだが、見当たらなかった。ここに一冊出現したというわけだ。

◯自分がメモした箇所

『調べる技術』の著者たる私が「これは知らんかったが有用かも」とページを折った箇所をちょっとご紹介する。つまりはここが拙著の相互補完になりそうな部分というわけだ。

・「gBizINFO」でさまざまな企業情報を調べる(p.91)

経産省の会社情報DBで400万社登録とある。前職NDLで私はビジネス支援を事実上やらず、なおかつビジネス支援担当課ではなぜかDBリンク集を公開していないし、社会科学系レファレンサーの総本山であるNDL調査及び立法考査局は、その基本的性格から公開に後ろ向きになりがちなので(それでも日本法令索引国会会議録検索システムといったあそこらしい伝統はある)、社会科学系のDBにどのようなものがあるのか、評価込みでのリンク集がない。熊田著で知った一番助かるDBがこれ。実際、本連載記事の第5回で現代人の人物調査に使ってみた。

・「若者雇用促進総合サイト」でホームページがない企業の情報も(p.107)

厚労省がやっている、若者雇用促進のDBです。会社情報DBとしても使えます。いま当該サイトを「古本」で検索したら、株式会社紫式部しかヒットしなかった。それでもサイト「日本の古本屋」に一時期拮抗した「スーパー源氏」を運営する会社のことが分かってよかったが、同じ厚労省系の「しょくばらぼ」のほうが同じ検索で7件ヒットするので、そちらを引いたほうが良いだろう。要するに「ホームページがない企業の情報」をどう探すかが、本当の調べる技術なのである。

・「登記簿図書館」を使う(p.121)

契約DBだが、土地や建物などの登記データが法務局に行かなくとも判明するというので知っておきたい。当該社のサイトによると会社の取締役クラスでも所有地や建物が判るという。特に土地登記は、趣味の研究からいうと、特殊な住宅地図「ブルーマップ」を介して戦後の「住居表示」と戦前の「番地」を自動変換する作業に使えそうとにらんでいるので(おそらく7割くらい可能)、そのうち機会があれば見てみたいサイトである。

・「公務員の履歴」を官報で調べる(p.138)

戦後分官報は「官報情報検索サービス」という契約DBでないと直接検索できないので(とても奇妙なことだ)、一介の市民には閲覧できない。課長補佐、課長、部局長といった実際に政策を決めたり執行したりする公務員は知られるべきだろう。「「公務員の免職」「教育職員の免許取り上げ」を官報で調べる」(p.139)も同様。

・電話番号や住所を調べる(p.147)

ネットの電話帳(住所でポン!)というDBがあり、それの有料版ではなく無料版が紹介されている。電話帳ナビというのはこの本を読んで知った。国会図書館の喫茶店の電話番号が判るね。「ネットの電話帳」は人物調査の三類型における無名人を調べるツール・電話帳を電子化したもの。拙著は限定的有名人を調べる話しか(わざと)しなかったのだけれど、ジャーナリスト向けのこの本では紹介されている。

■ビジネス人のライフハック――江尻俊章 著『ずるい検索』

拙著と関連して売れていると皓星社の営業・笹森さんに知らせてもらったもの。Amazonの推薦機能などがなかった時代、こういった書店現場で把握される売れ筋情報はものすごく重要だったのだ。時代はズレるが、1980年のガンダムブームの際、バンダイの営業さんが親が経営する模型屋に毎日のように来ていたことを思い出す。

・江尻俊章『ずるい検索:賢い人は、「調べ方」で差を付ける』クロスメディア・パブリッシング、 2023.7

◯ずるい? いやいや、まっとうな

タイトルが上手だなと思ったが、ちゃんと一書として成立しているので、この本(以下、ずるい本)まっとうなことしか書いてない(笑)。拙著もそうなのだけれど、まともな本には、理の当然、「当たり前」のことしか書いてないのだが、それを分かりやすく書いたり、読んで飽きないように書いたりするのは、ある種のクリエイティブな作業だったりもする。

◯自分がメモした部分

・パーソナライズを避ける方法(p.30)

Googleなどが、良かれと思って当方におもねった回答結果を出してくる。それを逆にウザいと思う自分がいる。そういった場合にどうするか。

・検索演算子を使いこなす(p.38)

「検索演算子の前後には半角スペースを入れてください。ただし「-」についてはその後に半角スペースを入れずに検索してください。」この「-」の用法は意外だった。NOT検索は高度な検索でしか使わないので気づかなかった。

・Twitter検索でのコツ(p.93)

ツイッター改めXで詳細検索ができることは知ってはいたが、一通りの検索式が使えるらしく、その一覧が掲げられているのが便利と思った。

・ビジネスに使える写真素材を集める(p.186-)

パワポなどを作る時、ちょっとした写真があればアクセントになって引き締まるのに、ネットにタダで使える「いらすとや」みたいなフォトライブラリーはないかと、かねてニーズは感じてきた(私の場合、著作権が一律消滅した戦前写真――正確には昭和30年以前の写真――を使うのだが)。無料サイトがいくつも紹介されていて便利。楽しそう。イラストやアイコンの無料サイトも紹介されている。

◯ビジネス人のためのもの

他にもいろんなサイトがてんこ盛りで紹介されている。それこそ帯に「すぐに役立つ230のツールを紹介」とある。ただ拙著がほとんど無料で登録不要のサイトを紹介していたのに対し、有効だが有料なサイトを紹介しているのはこの本が基本、ビジネス人向けのものであるからだ。そこが拙著といちばん違うところ。

また、現在のビジネスは英語文献を参照する必要がかつてより大きいので、海外サイトも紹介されている。これもハナから日本語ドキュバースに限った説明しかしていない拙著と違うところでもある。

■3冊揃えるとよいかも

拙著が汎用的な(でも中級者以上向けの)調べる技術だったのに対して、オープンソース本はジャーナリスト向け「政治とカネ」を調べる技術を紹介したものだった。また『ずるい技術』はビジネス人、とりわけマーケッター向けのもので、「商品とその評判」を調べるものだった。

真面目で深刻なことを調べるにはオープンソース本が、身近な商品やネットの便利ツール等を調べるにはずるい本が役に立つ。特にずるい本は、個人が趣味や生活で使う汎用ツールの使い方がいろいろ盛り込まれているので、マーケッターだけでなく一般向けの本としてオススメできる。ただし、領収書を経費に回せる人を想定読者にしているので、趣味人や学生には紹介されたサイトはあまり使えないかもしれないが。

とりあえず汎用の拙著で物足りなければ、社会問題系の補完として「政治とカネ」のオープンソース本、ビジネス系の補完としてマーケティングとライフハックのずるい本を買うとよいだろう。

ただ、今回もそうだが、紹介されているネット情報源はいきなり消えたり生まれたりする。拙著ではそれゆえ冒頭で、国会図書館の人文リンク集をメンテされ続けるリンク集として紹介したのだが、本当なら政治系リンク集やビジネス系リンク集もあるべきなのだろう。両書にいろんなサイトが紹介されているのを見て、そう改めて思ったことだった。

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。

 

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