皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第7回 推し活!――アイドルを調べる

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■『推しの子』

この前アニメ『推しの子』を見ていたら、作中人物の黒川あかねが、前世代アイドルの人柄について調べるため、国会図書館(NDL)にしか見えない図書館で文献調査をし、プロファイリングをするといった場面【図7-1】が出てきた。私は、まさにこの場所(旧・目録ホール)で案内役をやっていたので、この子はちゃんと「ウェブ大宅」(後述)を案内されたかしら、とちょっと心配になってしまった。

【図7-1】NDL端末を使うの図(アニメ『推しの子』第7話17分頃)

 

「そういえば拙著『調べる技術』で索引項目に「アイドル研究」があったな」と思い出し、手元の本を引いてみたら、意に反して第4講「ネット上で確からしい人物情報を拾うワザ」でなく、第7講「その調べ物に最適の雑誌記事索引を選ぶには」が出てきた。もちろん、黒川あかねは雑誌記事索引のうち「Web OYA Bunko」(以下、Web大宅)を検索したに違いないので(結果場面のプロファイリング・メモの量から推察)、アイドル研究≒雑索を使う、で問題ないのだが、果たして黒川あかねはまんべんなく調査できたろうか? NDLオンライン(来年1月、NDLサーチと統合される)だけでは不足なのだ。

などと思っていたら、アイドル研究の調査法は読んだことがないと気づいた。

 

■アイドル文献の特性――山のようにあるのに結構引けない

アイドルは、私の提唱する人物調査における三分類で「半有名人(限定的有名人)」にあたるが、なんというか、ふつうの半有名人とも調査上、違う特性があるように思う。一つには文献はたくさん出版されるのに、その検索がとてもむずかしいというちぐはぐさだ。さらにまた、ふつうの半有名人は、その肖像を探すのが意外と難しいのに対して、アイドルの場合、肖像だけは山のように出る。あまつさえ、1冊まるまる肖像だらけの写真集まで何冊も出る場合もあるのも、政治家や作家、ライターなどと違うところだ。そしてたくさん出たはずの写真集を図書館で閲覧するのはやはり結構難しい。

ひとことで言って、むやみやたらに「ある」のに「引く」には予備知識が要るのがアイドル文献なのである。

 

■アイドル調査のニーズは強い

純粋に推し活をするにせよ、サブカルチャー研究をするにせよ、アイドル文献・情報の見つけ方・調べ方が書かれてもいいように思う。

そもそも、普通の人がマジでガチに調べ物をする場面というのはそう多くない。大抵の疑問は周りの人たちに聞いて、分からなければそれで終わり。ガチの調べ物は、事故や相続、離婚など紛争を伴う法律がらみ、病気など健康情報、お金に直結する仕事がらみ、ファミリーヒストリーの先祖調べといったものに限られる。と思っていたが、もうひとつ、「推し活」のアイドル研究もそうだったと気づいたことだった。

ふつうの人が仕事・宿題以外で、マジでガチに調べたいと自発的に思うのが推し情報なのである。

そもそも、日本でアイドルは1970年代に出てきたものだという(田島悠来編『アイドル・スタディーズ』明石書店、2022)。純然たる歌手や俳優は、音楽家調査、俳優調査として音楽学や映画研究の文脈に載せて解説したほうがよいと思うのでここでは扱わない。また韓流や欧米のアイドルはかなり違う結果になるだろう。

 

■実績調査――木村佳乃さんの場合

どんなDBがアイドル研究に使えそうか、ベテランならばなんとなく知ってはいるのだが、今回はそれらが実際にどの程度役立つか、出る情報のタイプごとに件数を出してみた。

具体的には、現在、女優として活躍する木村佳乃(1976〜)を事例にした。理由は、彼女がアイドルだった頃、自分がかつてファンクラブに入っていたのと、会話をしたこともあり(1回だけね)、多少詳しいからだ。ウィキペディアによると彼女は「職業 女優・司会者・声優」とのことだが、私の記憶ではアイドルであった。

【図7-2】木村佳乃ファンクラブ会報『SOLEIL(ソレイユ)』(筆者所蔵)

年代的にメディアの変遷期と活躍期が重なるので、情報タイプごとの差が結果に出やすいからでもある(例えば、VHSとDVD両方出るなど)。

経験的に役立つことが分かっていた20点のDBを検索した結果が【表1】である。それぞれのDBで、どんなタイプの情報源がたくさん出るか見ていただきたい。

 

【表7-1】専門DBにおけるアイドル情報の出現件数(木村佳乃の場合、2023.8.20現在)

※数値表記やメディアタイプについては末尾の補足を参照のこと。

 

ヨコ軸が関係DBで、タテ軸が各種の文献・資料である。一見して、肖像系の文献は物販系やオークション系サイトで求めるのがよく、情報系はその道で伝統あるウェブ大宅に求めるのがよさそうなことがわかる。以下、DBを個別に見ていく。

 

■アイドル研究に使えるDBいろいろ

20点のDBそれぞれについて解説するが、全部一度に憶える必要はない。拙著『調べる技術』でも言ったが、個々のDBを憶え込むのは能力の無駄遣いで、むしろ「こういった(種類の)DBがあるのだな」と系統を憶えておくのが調べのノウハウだ。個々のDBは滅びたり出現したりするので、系統を意識するほうがノウハウとして機能する。

例えば「クリッピングっていうサービスを提供するテレビのDBがいくつかあるな。NHK特化とそれ以外に分かれる傾向か。テレビ、ラジオ関わらずドラマは別格で採録されるのね」と感じておく。

今回、総合目録系でNDLサーチを使ったが、同系統ならCiNiiブックスの結果はどうだろう、と作業を拡張させることもできよう。

いちおう各DBの項目にリンクを張っておくが、リンク先は不意に変更・消失したりするので、拙著第3講のNDL人文リンク集を参照すること(ただし、不思議なことにウィキペディアが今年の夏から外されている。ウィキペディアを使うなという議論は2000年代に世間を賑わせたが、要するに使い方の問題でしかない)。

百科辞典系(人名辞典系でもある)

百科辞典/事典には人名辞典の項目もある。これまで芸能人の調査には、専門人名鑑『日本タレント名鑑』(1970-)、『TVスター名鑑』(1992-)を使ってきたが、立項されていれば百科事典ウィキペディアのほうが情報量が圧倒的に多くなりそうだ。もちろん、立項がなければ専門人名鑑に戻らねばならない。

人名項目のフォーマットがあるのだろう、ウィキペディアの木村佳乃の項目がいちばんフィルモグラフィー(出演作リスト)もディスコグラフィー(楽曲リスト)もしっかりしている。熱心なファンがどれだけ編集するかにかかっているが、ここで情報が出ないものは、登場カレンダーやトレカなどエフェメラ(消耗品)や、ファンクラブ会報や同人誌、グッズ類に限られそうだ。

契約DBだからネットでふつうの人は検索できないが、人名DBのWHOプラス(日外アソシエーツ社)を検索すると、書かれた記事(人物文献)170件、書いた(インタビューされた)記事が10件ほど出る(1996年刊、同姓同名の歌人の歌集が著書として出てしまうのは間違い)。また、WHOプラスの縮約冊子版が『現代日本人名録』(1987-2002)と言っていいだろう。古いアイドルなどはこの冊子で出ることもあるので、WHOプラス未契約の図書館(例えばNDL一般閲覧部門)ではこの冊子を引いてみるのもよいだろう。

総合目録系

図書館、それも多数の蔵書目録を検索できるのがこの種のDB。大学図書館系のCiNiiブックスもあるが、アイドル文献は次の公共図書館系のほうが多いようだ。

NDLサーチ

いわゆる「図書」である写真集ぐらいしか出ないかと思ったところ、意外と記事情報がそこそこ出る。これは最近、記事情報がJPRO(出版情報登録センター)という外部DBから足されたかららしい。それ以外はどこかの図書館に所蔵されているもの。

雑誌記事索引系

NDLが元祖の雑索だが、他社のものを含め、従来の雑索はアイドルなどの軟派記事にとても弱かった。

ざっさくプラス

契約DB。戦前記事や文芸に強いが、今回の結果だと芸能系には弱いということになろうか。

ウェブ大宅

契約DBだが、古くから芸能記事ならこれというのが定評。実際には思った以上に芸能記事が採録されていた。大宅壮一文庫(八幡山、東京都世田谷区)へ行けば確実に見られるし、NDLへ行ってウェブ大宅を検索、NDL所蔵分を閲覧できる。近年の人物記事だけは『大宅壮一文庫雑誌記事人物索引』(2010-)にリスト掲載されているので、契約していない図書館ではこれを手がかりにすることもできる。

Fujisan.co.jp

雑誌販売サイト。趣味や生活の雑誌目次を広く検索できるのはここだったりもする。買えないバックナンバーはNDLで閲覧・複写する(掲載誌や巻号が分かれば遠隔複写も申し込める)。検索した後で「目次」を選択する。

NDLデジコレ

明治から2000年までの雑誌が自宅で閲覧できるはずだが、戦後の市販誌の多くは本文の検索だけ。それゆえ戦後雑誌については全文DBというより記事索引DBとして機能している。版面はNDLへ行って見ることになる。同種の全文DBとしてはGoogleブックスがあるが、「“木村佳乃”」で検索すると単行本を中心にいろいろひっかかる。ノイズが多いが、読みたい候補が見つかればNDLへ行って閲覧することになる。

○物品販売系(本、古本

どのような専門ジャンルであれ、専門DBが見当たらない場合、専門販売サイトが専門情報DBとして使えないか検討してみるとよい(拙著でいう「として法」)。例えば建築記事の索引DBで、ただで引けるものが見当たらない場合、建築専門古書店の販売サイトが建築物索引DBとして使えないか考えてみる(例.南洋堂書店

⑦アマゾン

商品分類ごとにキーワード検索をかけるのが、アイテムの種類ごとに検索する王道ではある(例えば「本+木村佳乃」)。しかし、一部の商品分類(例えば、「ファッション」や「ホビー」)と「木村佳乃」で検索すると、アマゾンプライム配信の番組表が出てきてしまう。おせっかいな検索システムだ。

日本の古本屋

以前はもうちょっと芸能雑誌も出たような気がしたが、最近、古雑誌類の商流がオークションサイトに流れているのかもしれない。

カルチャーステーション

大宅壮一文庫に行く途中に出現する「女性アイドル・芸能人グッズを販売・買取する専門店」がカルチャーステーションだ。立地が推し活における両者の親和性を物語る。その販売サイトは品切れ分も表示できるので調べ物によい。

同種の古書店に荒魂書店(神保町、東京都千代田区)があり、横断検索機能はないがアイドル名から一覧表示できるサイトを持っている(例えば木村佳乃ポスターリスト)。

駿河屋

サブカル一般の販売サイトで「まんだらけ」もあるが、ここでは新興の駿河屋を検索してみた。カメラなどのカタログ(ネット以前、有名人・アイドルは奢侈品の販売カタログに登場)が多くでるのは仕入れ方針によるものか。

○オークション系

図書館界では皆、及び腰なのだが、eBayなど競売サイトもレファレンス・ツールとして使える。競売サイトを書誌DB、博物館カタログとして使う法である。正体不明の欧米風習「ファースト・シューズ」を調べた際に役立ったことを憶えている。

ヤフオク

チラシ、パンフ、カタログなどエフェメラ一般がいちばん多く出品されていたのが伝統ある通称「オク」である。DVDなども多いので、木村佳乃に限らず出演リストを作るのにデータを応用できるだろう。めずらしいファンクラブ会報もたまたまだろうが出品されていた。落札品はデータ消去されるので、過去データを参照するサービスが別会社である。と、いまその一つ、オークファンを見たら2013年以降の出品データが参照できるので、調べ物にはこちらがよいかも……(要検討)。ヤフオク自体にも、過去180日の落札品を表示させる機能が付いている(一度検索して結果一覧の右肩「「木村佳乃」の 落札相場を調べる」をクリックする)。

メルカリ

新興のメルカリはテレカなどやや古めの商材がオクより少ない傾向である。また商品分類が粗すぎるように思う。切り抜きに夕刊紙・スポーツ紙がけっこう出るのは、たまたま仕入れた業者がいたからだろうか。この手の文献は検索不能なので情報は貴重。

番組クリッピング系

虚空に消える放送番組。そのまとめ記事を新聞切り抜きにちなんで「クリッピング」という。番組メタデータと言ってもよいだろう。アイドル研究には欠かせないが、調べるのは意外と難しい。

テレビ出た蔵

図書館界では誰も教えてくれないので、数年前、自分で見つけて驚いたサービス。どうやらもともとは広告主向けの商売らしいのだが、副産物として広く調査者にクリッピング内容を提供してくれている。検索すると「送信しようとしている情報は保護されません」と出るので「このまま送信」する。Googleカスタム検索を利用しているらしく、Googleが取りこぼしたページだと同じ番組でも違う回が出ない場合がある。その場合は別途、放送年月日をつかんで、「放送日時から番組表を選ぶ」で日次の番組表を出し、クリックする。

ドラマ以外の、ニュースやバラエティなどを検索するにはこのDBが頼りになる(ただし関東圏のみ)。

TVガイドweb

2018年以降のTVガイド記事を拾えるらしい。情報が多すぎる人物の場合に使えそうだ。

放送ライブラリー

以前もあった気がするがデータ内容が充実してきたようだ。代表的なものだけだが、古くからの民放番組やラジオ番組も出ること、なによりCMが出るのが特徴。なつかし系CMは以前、Youtubeに上がっていたものが多かったが、今はどうだろう。

NHKクロニクル

放送業界でNHKは別格官幣大社みたいなもので、『ラジオ年鑑』(1931-、のち『NHK年鑑』)の昔から、番組も経営もかなり詳しく情報公開されている。木村佳乃の事例でも、数少ないラジオ番組の実績が出ている。

テレビドラマDB

篤志家による個人のDB。UIの妥当性といい、典拠資料の確実性といい、本当に模範的なボランティアサイト。これを見ると、個人のHPだから参照先にしない、という図書館界の慣例は、必ずしも妥当でないことが身にしみる。

ラジオドラマ資源

テレビドラマDB同様の価値がある。感謝。

新聞DB系

新聞系はほとんど契約サイト。ここでは私が大学経由でよく使う2つだけを見てみたが、日経や毎日、中日なども広く探す場合には検索してみるべきだろう。NDLに行けばほとんど見られるはず。

読売新聞

契約DB。家から直接は引けない。固有名は「ヨミダス」。

朝日新聞

契約DB。以前は「聞蔵II」という固有名だったが、最近「朝日新聞クロスサーチ」と名前が代わった。

 

■まとめ――アイドル研究はウィキペディアを起点に

木村佳乃は長期的に活動し、かつ女優業以外にも進出している人物であるため、例えばテレビ出演に関して網羅的な⑬テレビ出た蔵だと情報が多くなりすぎる。しかし、長期活動人物であればウィキペディアに立項される傾向にあり、そこの出演リスト(orフィルモグラフィー)が要約的リストとして使えるだろう。

逆に短期間しか活動しなかったアイドルの場合、テレビ出た蔵の詳細性は使えるはず。また、この種のアイドルだとウィキペディアに立項されていないかもしれない。その場合は上記で述べた『タレント名鑑』などを元に情報を集約することになる。文献情報系ではウェブ大宅とNDLデジコレが役立つだろう。肖像が欲しければオークション系で切り抜きやカタログを集めると、写真集以外のレア肖像(?)が入手できるだろう。

ファンクラブ会報はある種のレア文献だが、やはりオークション系で入手するしかないだろう。存在は古本販売かオークション系で情報を得られるようだ。

結局、趣味の調査・研究では改めてアイドル研究におけるウィキペディアの重要性が確認されたように思う。この先、調べ物でウィキペディアは避けて通れない。その得失をしっかり意識して使ったり、あるいは立項することが必要になってくる。

また今回、女性アイドルで考えてみたが、男性アイドルの場合は結果も変わるだろう(例えば専門古書店の顧客は男性が多いので、古書店系のアイドル情報は男性が少なくなるなど)。海外アイドル、例えば韓流スターなどでは別の探し方があるだろう。今回の事例を参考に自分の推し活を試みてほしい。

 

■補足

■(補足1)【表7-1】の見方

○ヨコ軸は各種DB

横軸が20件のDBで、6つの系統に分けてある。

○タテ軸はメディアのタイプ

アイドル研究の情報源といったらどのようなモノを思いつくだろうか? 取材記事? グラビア? 肖像であれ文字情報であれ、そういったアイドルのことが載っているメディアのタイプを並べてみた。ウィキペディアの人物項目の細目や、ヤフオクの商品分類を参考に、自分の持っているモノを加味して作ってみたアイドルメディアの形態分類である。

動画音声系で、DVDと映画、テレビ番組といった物理形態と表現形式で競合ないし重複があるが、そこはご愛嬌。

○数値:0、「・」、「+」

表内の数値はヒットした件数である。オークション系は同じアイテムが複数出るなど、件数が多くなる傾向になる。物販系は⑦日本の古本屋を除き、アイテムのアイデンティファイはできている傾向にある。

数値の「0」は出てもよさそうなのにノーヒットだったという意味だ。ただj著書/伝記は法定納本と連動している②NDLサーチに出ないので、もともと出ていない可能性が大である(私の記憶でもそう)。

「・」は、そのDBではもともと扱わないメディア形式と思われ、検索もしていない(ことが多い)もの。対して「0」は出てもよさそうなのに、2023年8月19日現在、ノーヒットということである。

「[ ]」の数値は、サイト側で用意された分類がうまくいかないので「木村佳乃 テレビ」などと単純なキーワード検索をかけた数値である。あまり自信がない。

 

■(補足2)アイドル・メディアのタイプ別詳説

表のタテ軸、メディアのタイプについてさらに補足説明する。昔風に言えば図書館資料論である。

a 写真:ブロマイド、フォト

肖像そのもの。昭和戦後期はブロマイドとしてブロマイド屋で販売されていた。ウィキペディアにはクリエイティブ・コモンズのものが転載されている。

b 写真集

アイドルの場合、ほぼ必ず出版されていた。最近は電子本オンリーも近年増えてきたが。図書館だと写真集は純粋(?)娯楽として選書段階で忌避される。NDLに網羅的納本として収蔵されるほか、国際日本文化研究センターのコレクションがあるくらいだ。

例外的に受容されたものとして、篠山紀信撮影『Santa Fe : 宮沢りえ』(朝日出版社、1991)がある(NDLにある出版史コレクション布川文庫の同書(請求記号VG1-H10878)には、当時の受容をめぐっての議論が新聞切り抜きという形で挟み込まれている)。

書誌データ上、本来なら被伝者としてアイドル名が件名標目に立つべきだが、NDLでは伝統的に写真集に人名件名を付与してこなかった。ただし、2016年頃から非統制件名を付与している(流通系MARCデータからの流用か)。1969年からのNDLC分類では、Y84、Y85、Y88、KC726などに付与実績が分散している。近年ではY89(2002年〜2020年)が付与されていたが、2020年からY94(簡易整理資料>その他、2000年新設)に放り込まれてしまっている。検索にはNDC分類748と人名を使うことになろう。

c カレンダー

大判と卓上のものがある。カレンダー出版史研究はまだない

d ポスター・中吊り

大判ポスターは企業広告の一環で生産され、関係小売店などへ無料頒布される。当時は非売品であることが多い。週刊誌のグラビアや表紙に出るアイドルの場合、週刊誌自体の広告である中吊り広告にも肖像が出る。電車の中吊りはここ十年ですっかりなくなった。

e 金券:テレカ等

テレフォンカードは1970年代の郵便切手同様、コレクションの対象になり、1990年代にはかなり高い相場をつけるものもあった。

f タテカン・パネル

アイドルならではの資料。立て看板は全身の肖像であることが多い。大判ポスター同様非売品。

g 切り抜き

アイドルならでは、特有の商品形態で、雑誌や新聞の記事を切り取ったもの。英語ではクリッピングという。古書業者その他が仕入れた雑誌・新聞から生産したり、あるいはやはり古書業者がアイドルファンが作成していたものを売ったりする。オークション系にはここ十年くらいで出てきた比較的あたらしい情報源。出典が不明なことが多いが、記事という検索しづらいものの存在を知る重要な手がかりでもある。クリッピングサービスは明治期から新聞紙を切り抜いた配信があり、その時代の訳語「切り抜き」が現在まで使われている。雑誌の場合は切り「抜き」でなくページ単位の切り取り形態である。

h 記事情報

雑誌や新聞の記事情報、タイトル、掲載誌名、巻号、年月日などである。これをたどって、NDLで参照・複写したり、古書市場で当該号を買うことができる。

i ファンクラブ会報

自分はたまたま持っていたので絶対にあるはず、という前提で検索をかけてみた。出ていたという情報自体、見つからないものである。

j 著書/伝記

「タレント本」というジャンル名になろうか(1980年代に広まった言葉らしい)。アイドルなどタレントが著者、あるいは被伝者の図書のことだ。インタビュー本は図書館のデータだとされた人が著者扱いになる。ただし、木村佳乃の場合、どうやら1冊もないようだ。ないことの証明は難しいが、私の記憶でもない。

k チラシ・パンフ・カタログ

古書業界語でいう「紙もの」、図書館学用語でいう「エフェメラ」と総称される資料である。意外とカタログが保存されない傾向があり、古書市場にもあまり出ないように思う。

l 同人誌

理論上ありえるので立項したが、木村佳乃の同人誌はないのではなかろうか。合理的な検索手段がほぼない。理屈上はNDLへ登館して『コミックマーケットカタログ』(1982.8-)を全部めくるべきなのだろうが……(一度、やってみたい)。

m DVD

映画、テレビ番組がパッケージ系メディアとして商品化されたもの。箱や付属の冊子に情報が書かれていることがある。

n オーディオブック

アマゾンでのみ見つかった。

o ビデオ

写真集とセットのVHSが出ていた。

p CD

20年ほど立つといきなり聴けなくなることがある。保存性が悪いことは1980年代の発売当初から言われていた。

q テレビ番組

⑬テレビ出た蔵、⑯NHKクロニクルが圧倒的な採録数である。ドラマ以外の番組を調べるのが難しい。放送番組の台本についてはu舞台の項を参照のこと。

r 映画

専門誌も古くからあり、国立映画アーカイブもあるので相対的に調べやすそうだが。

s CM

cテレカと連動していると思われる。テレカ情報からCMの存在を知ることもできよう。

t ラジオ番組

テレビ出演は多いのにラジオ出演は僅少なのはなぜだろう? 木村佳乃個人の好みか、事務所の方針か。

u 舞台

将来的には台本などが資料として残されるはずである。台本(脚本)の保存はNDLがやっており、調べ方案内に「脚本・シナリオを探す」があるが、いずれにせよ出演作のタイトル等を先につかんでおく必要があろう。

v 音声ガイド、声優

ウィキペディアくらいでしかすぐにはわからない情報である。DVDやフィルモグラフィーから抽出される情報であろう。

w グッズ:ファイル、うちわ

クリアファイル(むしろフォルダ?)やうちわがあると分かったが、私が持っているサイン入り(ただし印刷)傘【図7-3】が出ない。実態上存在するのにネットで存在すら判らないものというモノもあると分かる。個々のDBの特質を知るのに、知悉する主題を選んで実際に検索をかけてみるのが有効だと知れる次第。

【図7-3】1999年末に新宿高島屋で頒布された傘(筆者所蔵)

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。

 

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