皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第4回 予算無限大の理想のコレクションから、現役のレファ本を見つけるワザ

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■大検索時代にはこれ! レファ本フェア開催中

前回予告で思考実験の意味での「壁打ち」用例を探す、としたけれど、答えは分かったものの説明がかなり複雑と判明したので別の機会に譲りたい(答えはダイヤモンド社HPの読書猿さんとの対談に近日中に出ます)。かわりに現在全国書店で開催中の「『調べる技術』の小林昌樹が選んだ「調べの本」50選」フェアにちなんだノウハウをここに書いておく。
「50選」リストの評判が良いのにこんなことを言うのもなんだけれど、私なんぞに頼らずに、常にいつでもいつまでも、〈その時々で現役のレファ本を知るにはどうすればよいか〉というノウハウをみんなが持っていればよい。今回説明するものがそれ。これを知っておけば日本が沈没するその日まで、現役のレファ本をいつでも見つけることができるハズだ。

 

■「「調べの本」50選」の作り方

【図4-1】「調べの本」50選ブックフェアリスト

 

フェア「「調べの本」50選」のパンフレット末尾に、リストの作り方を書いておいたが、ここで再度説明する。国会図書館(NDL)の蔵書データベース(DB)であるNDLオンラインを使った。やり方としては、所蔵場所「東京:人文総合情報室」にあるここ数年の新刊書で候補リストを作り、プリントして、それを持って永田町の当該室へ行って現物をチェックしてさらにリストから新しめの(レファ本としては)安めのものを選んだ(書店さんのフェアなので)。
要するに国立図書館のレファレンス室(以前は「専門室」と言ったが、○○資料室、✗✗情報室などいろいろ)に開架されているレファ本から買いやすく新しいものを中心に50点選んだわけである。中身に責任を持ちたいので得意な人文、総記系の本ばかりとなったが、NDLオンラインを使えば、それ系に限らず全知識ジャンルで同じことができる。

 

■予算無限大のレファレンス・コレクション

やり方を説明する前にちょっと理屈を述べておく。
国会図書館はただ大きい図書館であるだけでなく、その大きさは法定納本によって支えられている。本を出版した人や会社(書いた人や書いた法人ではない)は1部、その本をNDLへ納めないといけないと国立国会図書館法25条に書いてある。そのせいかどうか、市販図書の9割方はNDLに納められている。自費出版や同人誌など非売品の納本率はもっと低いが、私も同人誌を出した際には納めた。
NDLでは現在では毎日(以前は週に1、2回だった)レファレンサーによる「選書」が行われる。その週ないしその日整理された全ての本(非売品のみならず、マンガ、エロ本まで含めた全て)が「選書コーナー」に排架され、レファレンサーが自分たちのレファレンス室に必要なものを選ぶ一方、不要になったものを書庫に戻すという作業をしていた。
納本「選書」で全ての本が手に取れ、そこから選ぶので、論理上、予算無限大でレファ本のコレクションを部屋に作っていることになる。この理想のレファ本リストを利用しない手はない。

 

■知識ジャンルとレファレンス室の対応表

ということで、NDLオンラインをレファレンス室ごとに検索すると、その時点で「使える」「使う価値がある」と判断されレファレンス室に置かれているレファ本をリストアップできる。ところが一つ問題がある。NDLオンラインで検索し分けることができる「配架場所」には、レファレンス室でない部屋がいくつかあるし、そのレファレンス室は「主題部門制」といって、大まかな知識分野(ディシプリン)ごとに担当の部屋が別になっているので、本の主題(ここでは広く検索できる日本十進分類法NDCを使う*)ごとに違う部屋が設定され、主題ごとに部屋を選んで検索するしかなく、一括して理想のレファ本を検索するキーがない。ある主題について、どの部屋の所管なのか、中の人でもわかりづらいし、外の人ならなおさらなので次にその対応表【表4-1】を作ってみた。

【表4-1】NDCとNDLレファレンス室の対応表

★「東京:人文総合情報室」
☆「子ども:調べものの部屋」

>は下位区分

我ながら書いていて、なかなか複雑である。説明すると、NDCで「070」のように書いてあるところは、「000総記」のほぼ全部が人文総合情報室の担当でレファ本もそこに開架に出してあるが、総記のうちの「070」新聞に関してだけ、レファ本が新聞資料室の開架に出してある、ということである。ちなみに「020」出版は「000」の下位なので人文総情報室に開架のレファ本がある。
憶え方としては、社会科学・自然科学は人文総合情報室以外の部屋にある、としておくとよい。要するに「科学」とそれ以外である。また「科学」分野でも前近代の事柄は人文総合情報室にレファ本がある。☆は上野にある国際子ども図書館の調べものの部屋だが、レファ本だけでなく、必ずしもレファ本でないものの、調べるのに使えそうな中高生向きの本が開架に出されている。

* 原理的には国立国会図書館分類法(NDLC)や件名(NDLSH)と掛け合わせてもレファ本リストは作れるが、それぞれ癖があるのでここでは説明しない。

 

■事例1 テレビ番組の一覧表はないか?

テレビとなると産業の一種で、ならば「科学技術・経済情報室」にあるのかと即断しそうだが、上記【表4-1】を見るとテレビ番組は「699」で、「東京:人文総合情報室」にレファ本が置いてあると判る。
そこでテレビ番組のレファ本を見つけるには、NDLオンラインで、まず所蔵場所をプルダウンして「東京:人文総合情報室」に設定。そして分類をNDCにプルダウンし「699*」と入力し、検索してみる**。【図4-2】

【図4-2】NDC「699」の前方一致かつ所蔵場所「東京:人文総合情報室」で検索

 

すると、テレビ番組について現役のレファ本が22件ほどあることが判る【図4-3】。

【図4-3】テレビ番組についてのレファ本

 

品切れ本になっている『ザ・テレビ欄』シリーズがレファ本として開架されたままになっており、もう10年以上、これに代わる簡便なテレビ番組一覧が出版されていないことが判明する。逆に言えば、広くテレビ欄を見たい場合には、これを古本で購入するという選択肢がこのリストから出てくるわけである。

実はテレビ番組のレファ本でいちばんいいのは、10年ほど前に出た『テレビ60年 in TVガイド』(東京ニュース通信社, 2012.8 <Y94-J28461>***)で、たしかに人文総合情報室に開架されているのだが、NDCで検索してもヒットしない。これはなぜかというと簡略整理資料(請求記号がYで始まるもの)のうち一部にNDCが付与されていないからである。ちょっと残念。

NDCは和書(日本語書籍)にしか付与されていないので、自然と検索結果は和書ばかりになるはずだが(一部漢籍にNDCがある場合がある)、NDC以外で検索した場合には、洋書、中国語朝鮮語図書、雑誌、年鑑などがヒットする場合がある(それらのレファ本も少し配架されるので)。それらを排除して検索したい場合には、「キーワード」欄直下にある資料形態別で「図書」を選んだり、本文の言語コード欄で「jpn」を選ぶ。

** NDCで検索する際には、検索結果が多くなり過ぎないかぎり、なるべく前方一致「○○○*」で検索するとよい(後方一致はNDLオンラインではできない)。

*** < >内はNDLの請求記号。

 

■事例2 科学史のレファ本

【表4-1】を見ると「400」自然科学は置き場が当然「東京:科学技術・経済情報室」だが、その隣に「★」がある。これは前近代の自然科学にあたるレファ本は「東京:人文総合情報室」にあるということである。そこでNDC「4*」で当該の部屋を検索すると、『洋学史研究事典』『科学史事典』といったレファ本が最近出ていることが判る【図4-4】。

【図4-4】人文総合情報室にある科学史のレファ本

 

■玄人向けメモを三つ

■メモ1 NDLのモデル効果

中の人たちはほとんど意識していないのだが、国立図書館にはモデル効果がある。例えば他の図書館がレファ本を買おうとした場合に、自力で市場調査をしてイチから選定するよりも、国立図書館のレファ本リストをそのまま候補リストにすれば百分の一以下のコスパで選書リストが作れるだろう。なにより納本が完全な国立図書館のレファレンサーがきちんとしていれば、予算無限大で理想のレファ本リストになっているはずだからである。
今回のような知識が世間に広まれば、目立たないだけで売れないが良いレファ本も、もうちょっと売れるようになるだろう。

 

■メモ2 参考図書解題、というもの

現役でないものも多量に含むが、レファ本の解説というものが図書館界では戦前から作られてきた。次のようなレファ本のガイド、「参考図書解題」という種類の文献リストである。

A 日本の参考図書 第4版 / 日本図書館協会日本の参考図書編集委員会 編集. 日本図書館協会, 2002.9 <UP41-G7>
ただこれはもう20年以上前に出たもので、これ以降は一応、データベースになっている。
B  日本の参考図書Web版 『日本の参考図書 第4版』データも搭載。2011年ごろまで収録。「カテゴリー検索」を使うとよい。日本図書館協会が作成し、2022年に皓星社で公開された。
C  NDL参考図書紹介 NDC分類から検索するが、事実上、最初の1桁、つまり総記、歴史といった「主類 (main class)」でしか検索できないので不便。1990年代から現在まで。

いま上記のB・CのDBを見てみると、ディープな趣味や研究のため網羅的にレファ本を探すのには良いが、NDLオンラインのレファレンス室検索に比べ、退役したレファ本を排除する機能がないので、実務としての調べもの、軽い趣味のためのレファ本探しには向かない。

 

■メモ3 三次資料の一覧

これは拙著『調べる技術』p.23に掲げた表なのだが、次に【表4-2】として図書館情報学で「三次資料」と言われるものの一覧を再掲する。ふつうの文献を一次資料とすると、そのリストが二次資料となり、さらに二次資料のリストが三次とされる。今回のノウハウがどのような「全体」の一部なのかを理解するのによいかもしれない。
【表4-2】ツール類の一覧リスト比較表

今回説明した〈NDLオンラインから現役レファ本を見つけるワザ〉は、上記【表4-2】の④にあたる。前項目で説明した参考図書紹介は②にあたる。❶は『調べる技術』第3講で説明した。❺は第13講で説明した。

 

最後に(編集部より)

『調べる技術』の小林昌樹が選んだ「「調べの本」50選」フェアは、現在全国の6つの書店様で開催中です。

ガチな調べものをするには、1セット30万円近くもする日置英剛編『新國史大年表』(国書刊行会、2006-2015、全10巻)といった本が必要なのですが、ここでは近年刊行され、高すぎないレファレンス図書や調べもののハウツー本をいくつか紹介します。
2023年3月 小林昌樹

各書店様では小林さんが各書籍につけたコメントをまとめた12pの冊子も無料配布しています(大変申し訳ございませんが、弊社から個別のお客様への配布は対応しておりません)。

今後、フェア実施書店は増えていく予定でございます。詳細につきましては、弊社HPお知らせ欄およびTwitterをご覧ください。

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。

 

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