皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

神保町のんしゃら日記4(2024年3月)

晴山生菜(皓星社)

 

3月2日(土)今日も葉山町から神保町へ。おまたたかこさんの『ハムスターまものすてきなおうち』(ハッピーオウル社)の原画展でギャラリートーク。友達とおしゃべりしているかのような自然なおまたさんの話し、つい引き込まれちゃうなあ。このお話はハムスターの「まも」一家が新しい家をたてて引っ越しをするお話。おまたさんがご自分の家を建てた時の話がもとになっているそうで、登場人物の大工さんもみんなモデルがいるんだとか。絵本に登場するキャラクターたちがつい身近に感じられてくる。本の売れ行きもよいようでホッとした。

7日(木)打ち合わせ3件の慌ただしい日。午後一で1件。夕方、南陀楼綾繁さんと「書庫拝見」単行本化の打合せ。書名は決まったけれど、副題をどうするかでウンウン唸る。その後、佐中由紀枝さん宅で写真集『光の函』打ち合わせをして直帰。今日は『ハンセン病文学全集』の編集者だった能登恵美子さんの命日だったのにお墓参りにいけなかった。せめて心の中で手を合わせる。

8日(金)「人生も詩も、たった一人の人間の為だけのものなのであるが、それが時々、何らかの形で多くの他人のものになったりならなかったりするだけのことなんだよ。より自分を獲得するためのたたかいでなければそれとて無意味なのだよ。」(友川カズキ『一人盆踊り』)。31歳で自殺した弟の遺稿詩集によせたこの「「覚」オメデトウ」の最後のくだり、何度読んでも聞いても胸が詰まる。
岡部隆志先生の『「悲しみ」は抗する』校了。悲しみを表現するということは、自己慰撫などではなく、忘却への抵抗なのではないかということを論じていく短歌評論。悲しみを風化させず悲しみつづけるということは、実は1週間に2冊も校了があると慌ただしい。

9日(土)近所の南郷公園へ。葉山町民なら持ち帰り自由の腐葉土と草木堆肥をもらう(45リットルのゴミ袋に2人で4袋分)ついでにぶらぶら散歩。道端の切り株にふっと目をとめると、既視感のある茶色いキノコが生えている。……どこからどう見てもキクラゲだ。ポケットに入っていた袋に採取して持ち帰ってみることにする。昼ごはんの時によくよくゆがいで一口ずつ食べてみる。うん、味がない。うまいまずいではなく、ただ味がない。キクラゲは食感の食べ物で、旨味とか味とかはないのだということがわかった。(特に体に異常は出なかった)

12日(火)お風呂のなかで『吉原幸子詩集』(現代詩文庫)を読む。これは何年か前に古紙の日にゴミ捨て場から救出したものだったはず。

13日(水)若林理央『母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド』(旬報社、2024)を読む。「産まない」ことを今時点で選択している人たちへのインタビュー集。30代後半の産まない女として、他の人がどのように考えて選択しているのかには興味がある。産む/産めない/産まないという単純なわかれ方ではなくて、産まない、にも色々な産まないがあるのだ。事実ここに登場する人で自分と似ている、共感するという人は私はいなかったし、だからこそ読みがいがあった。私の場合はただただ優先度が低いというだけで、もし自分が2人いて、より色々なことに割ける心と時間があるなら、子供というものを育ててみたい好奇心はある。親に孫の顔を見せたいとか、将来のためとかではなく、ただの好奇心として。……でもまあ、2人自分がいたら、2倍働いて、やっぱり産まないかもしれないな。まずは次の世代で「産みたい」人がいた時に、仕事も出産もえらべるような会社づくりをすることだ。暖かくなってきて、私の好きな木蓮が満開。

14日(木)午前、ジャーナリストの犬飼淳さんと、5月に刊行するインボイス本の打ち合わせ。午後は韓国語の翻訳出版の打ち合わせ。この2週間企画の打ち合わせ続き。その合間を縫って、あたらしいデータベースの準備もしている。目が回りそう。

15日(金)佐中さん宅で打ち合わせ、ののちに月光編集会議。

16日(土)カラサキ・アユミさん『古本乙女、母になる。』トークイベントの日。聞き手は古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山力也さん。カラサキさんはアルチンボルド(!)の一度見たら忘れられないビビットなワンピースで登場。午前中からお二人の趣味展周り、古本屋周りに同行し、昼をはさんでトーク!それから懇親会まで、おおいに盛り上がった。おかげで本もよく売れた(大事)。60人近い来場者のうち40人近くの人が、アンケート用紙にしっかりメッセージを書いてくれていた。カラサキさんという人は不思議な魅力溢れる人だ。誰もが好きにならずにはおかない人、というのは、こういう人のことを言うのだろう。そういう著者と出会えたことはなんと幸運なことだろうか。古本づくしの楽しい一日。

17日(日)一晩あけて、カラサキさんと古本屋さんの書店まわり。サイン本を置いてくれたお店(ゆうらん古書店さん、よみた屋さん、古書音羽館さん)をまわり、行った先々でお話ししたり買い物しているうちにあっというまに1日が過ぎる。楽しかったぁ。エスカレーターで歩くか/歩かないか問題で激しく同意し合う(歩く方)。中央線沿線に会社があった時代にもっと古本屋さんに行っておけばよかった。(そして日記を書きなながら、やっぱりあの日、あそこにあったあの本買えばよかったかなぁ……とあれこれ思い返している。)

18日(月)イベントと営業2連続からの月曜日、さすがにちょっとお疲れモード。あと2日経ったら祝日!と思って粘る。

20日(水)エイビー(神奈川のスーパー)で野菜など食料買い出し。夕方、友遠方より来るあり。一緒に焼肉きんぐへ。注文も配膳もほぼ自動化されていて、働いている人は少ない。食べ放題なので、たまにいつまでも来ない注文品があっても、もう一度注文すればいいやという感じで、客の方も気にしなくなっている。これからの飲食店はこのような店と、個人経営の店に二極化していくのであろうか。人手不足をどのように解消するかは、接客業では我々よりも切迫した問題だろう。
まあ、人様のことを考えている暇はない。ちょうど一年前はアメリカでAASに参加していた頃のはず。一年、あっという間だ。来年は、ざっさくプラスのリニューアルもあるし、また行きたい。スピードを上げて頑張らなくては。

22日(金)佐中由紀枝さんの写真集『光の函』の本紙校正出向の日。校正紙を持参して一緒に色の確認をする……ということは、時間もかかるしエネルギーがいるので、まずは江戸川橋前の立ち蕎麦やさんでしっかり昼ごはん。カツ丼カレーなるものを食べる。カツカレーのカツが、煮カツになっているというカロリー爆弾。しょっぱい、でも美味しい。エネルギーを充填して佐中さんとガッツリ校正を確認する。

23日(土)朝一の新幹線で大阪へ。江坂図書館1周年記念のブックフェスに出店する。皓星社のほんとハッピーオウル社の本を半分ずつ。あいにくの雨で、なかなか客足は鈍いけれど、一緒に出展している人たちも気心の知れた同業者の皆さんと楽しく販売する。途中、クレヨンハウス大阪店で、ニジノ絵本屋のいしいあやさんと、絵本のつなぎてのふわはねさんのトークショーも聞けた。いしいさんも人を惹きつけずにはおかない感じの人だ。人の魅力の源泉というのはどういうところにあるのだろう。

24日(日)江坂ブックフェス2日目。この日は『SadSong』の著者で、同じ月光の会の短歌仲間の窪田政男さんが遊びに来てくれた。天気も少し回復して、昨日よりは客足も増えていつものように接客。図書館の一室を借りての販売なので親子連れが多く、絵本を手に取ってくれる人が多かった。長机1台があるとして、人文書だけでは通り過ぎてしまう人が、絵本があると立ち止まってくれる。組み合わせの妙。夕方まで販売し、心地よい疲れに包まれて帰宅。

25日(月)プチヴェール、という野菜があったので買ってみた。ケールと芽キャベツの掛け合わせだそうだ。サイズは芽キャベツ……結球しきっていない芽キャベツという感じ。茹でてそのままおひたしにして食べる。味に特に目新しさはないけれど見た目も可愛らしく緑も鮮やかで、食卓が春の雰囲気になる。それに未知の食べ物を食べるというのはそれだけで楽しい。

26日(火)家がシロアリに蝕まれていることが判明し、業者さんが薬剤散布にくる。壁紙の一部を剥がしてみると、見事な食われっぷり。ああ〜……。風呂場と洗面所は大掛かりな工事がいるかもしれない。築40年近い木造建築、仕方ないか……。

31日(日)いい天気。庭にでると、ブルーベーリーのつぼみが少しずつふくらんできている。プランターに放置していたアスパラも頭をだしている。もう、春だ。