皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

古本趣味と赤ん坊と。 カラサキ・アユミさん

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古本と古本屋への愛を4コマ漫画で綴った『古本乙女の日々是口実』(2018年、小社刊)の著者であるカラサキ・アユミさんに〈新年の抱負〉をテーマにご寄稿いただきました。昨年にはお子様も生まれ、新たなステージへと一歩踏み出すこととなったカラサキさん。育児をしながら、これまでの趣味も手放せない! そんな葛藤とその両立に向けての強い意志は必見です。(編集部)


カラサキ・アユミ

 

2018年に我が古本愛を入魂した初めての著書『古本乙女の日々是口実』を皓星社から出してはや4年の月日が経った。

その間、あの頃二十代だった自分は気付けば三十代となり、昨年には0歳男児の母親になった。初めての事だらけで四苦八苦しながらも喜びに溢れる子育てを、髪を振り乱しながら楽しんでいる。

何だか人生を猛烈なスピードで駆け抜けていっている感覚だが、心の中の乙女心は依然衰えていない。相変わらず古本趣味も熱量変わらぬまま継続中だ。

ただ子供が産まれたこともあって当然の事ながら以前のように古本と密に接する機会は激減した。

女性の場合、出産を機に趣味を諦めざるを得ない人がかなり多いように思う。母親になった瞬間から自分の為に割ける時間が圧倒的に減ってしまうからだと自分がその立場になって初めて実感した。

 

思い立って夜行バスに乗って泊まりがけで他県の古書即売会に赴いたり、電車に数時間揺られて丸一日かけて古本屋巡りをする事が気軽に出来ていた頃がとても懐かしい。

だが、限られた選択肢の中でも楽しめるのが古本趣味の素晴らしい点の一つ。

古本屋には頻繁に行けなくなったものの、今は家に居ながらにして片手で好きな時間に古本漁りが出来るネット通販を主に活用している。子供から手が離せない私にとって、携帯が古本探しの相棒となった。古本屋で指先を埃で真っ黒にしながら琴線に触れる本を直に探すスリルとワクワク感には随分劣るが、ネットでの古本漁りはそれはそれで楽しい。「将来子供が読むかもしれないから」という新たな古本買いの口実も増えた。

我慢することが苦しくないと言えば嘘になるが、買い溜めた古本達のページをようやく開く機会が増えたり、以前とは違う古本の買い方を開拓して発見があったり等々、挙げると何かと新鮮なネタが尽きないニュー古本ライフを歩んでいる。

 

しかし金銭感覚の変化ばかりには未だ葛藤が続いている。

今までは何とも思わなかった、書店で新刊の単行本を2、3冊買う行為にも躊躇うようになった。「子供を1人育てるには家一軒建つ」という先人達の言葉。親という立場になった今、凄まじく痛感している。月のオムツ代にミルク代だけでサラッと稀覯本が買えるのではなかろうか。

そう、古本趣味を楽しむ為にも金銭は不可欠。いくら愛が深くても、いくら安物買いで楽しもうとポジティブに考えても流石に500円玉一枚では満足に楽しめないのが現実だ。

ちなみに現在母親業に専念している私の古本軍資金の出所は、全て自分の財布からと決めていて、これまで働いていた時代に蓄えてきた僅かな貯金、そして連載中の原稿の執筆料など、それらをやりくりしながら細々と古本道楽を楽しんでいる。

夫に趣味費用を無心した時点で負けと思うようにしている。これは趣味を堂々と楽しむ為の私の唯一のプライドでもある。この気合いを原動力にして産後の古本資金を少しでも増やしておこうと、大きいお腹を抱えながら出産ギリギリまで喫茶店でナポリタンを作ったり珈琲を淹れていた私。グッジョブである。

その甲斐あって、毎日朝から晩までこんなに頑張っているご褒美! 高級なブランド物のバッグや化粧品を買うよりは全然安上がりじゃあないか! しかも古本には賞味期限がありませんのよ! と、このように夫が言い返せぬ最強の常套句を叫びながら「これは絶対欲しい!」と思う古本は嬉々として買えている。

疲れた時に甘い物を欲するのと一緒で、自分の場合その代わりを担っているのが古本なのだ。こればっかりはこれまで同様、母親になってからも恐らく死ぬまで変わらない栄養分だろう。

ただ、いつか成長した我が子に母ちゃん! オイラこの本欲しい! とねだられた時にいつでも笑顔で買ってあげられるようにもしてあげたいので雀の涙でも貯金していきたい親心がある。

なのでこれからは古本屋巡りをした後の喫茶店でのコーヒー休憩を自販機の缶コーヒーに変えたり、腹ごしらえの場所を定食屋からワンコインで食べられる牛丼や立ち食い蕎麦を選ぶようにしたり(平気な時は食べず)、中途半端に欲しいと思う本の購入を控えるようにしたり、こうした小さな工夫を積み重ね、そして時折理性も同伴させて古本道を歩いていくつもりだ。きっとこの調子で葛藤や衝動とも上手く付き合っていけるだろう、多分。

 

子供を持ったことで今まで見えなかった世界。そこにはささやかでも新しい達成感や喜びが転がっているわけで、それらを古本と一緒にひとつひとつ拾い上げていく作業も楽しんでいきたい。

これまではガムシャラに手当たり次第に飛び込み泳いでいた古本の海を、今度は小さなボートに子供と一緒に乗って釣り竿を下げてプカプカのんびり漂っているイメージが私の目の前に広がっている。

 

ズバリ2022年の抱負は趣味と子育ての両立だ。

なかなか理想通りにいかないからこそ工夫を探したり精進し甲斐があるというもの。持ち前のハッピー思考と欲張り精神で限られた状況の中で新たな古本スキルを磨くに尽きる。

さぁ子供のめまぐるしい成長と共にどんな古本スタイルを築き上げていくのか。

私の新年はまるでこれから冒険が始まるようなワクワクした気持ちでスタートしたのであった。

 

 


カラサキ・アユミ(からさき・あゆみ)

1988年福岡県生まれ。海と山に囲まれた地方都市在住。幼少期からとにかく古本の事で頭が一杯な日々を過ごす。大学卒業後はアパレル店員から老舗喫茶店のウェイトレスを経て、以降は古本にまつわる執筆活動等をしながら古本街道まっしぐらの日々。肩書きの無い古本愛好者。目標は生涯現役の古本需要者。


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