皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第19回 特別編・レファレンスツール『戦時・占領期出版史資料索引――戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』を冬コミで出します

河原努(皓星社)

 

■冬コミ(「コミックマーケット101」)に参加します

今月末(令和4年12月31日)、近代出版研究所として「コミックマーケット101」、いわゆる“コミケ”に参加します(※1)。二日目の「東ポ42a」です。

“コミケ”への初参加は今年の夏、参加する以上は新刊がないとまずかろうと「近代出版研究叢書・資料編1」と称して『「出版年鑑」掲載全訃報一覧――昭和平成期 著作家・学者・出版人7000人』なる冊子を作った。

これは、昭和5年(1930年)から平成30年(2018年)の約90年にわたる『出版年鑑』から年間史の訃報部分に掲載された訃報を抜き出し、名前ヨミの五十音順に排列したもの。収録人数は延べ7128人。私の「『出版年鑑』の年間訃報欄について」と小林昌樹所長の解説がついている。同人誌ながら、晴山社長のご厚意で弊社のウェブストアでも取り扱って頂き、まずまずの売れ行きである。

 

※1 コミックマーケットは夏と冬の年2回で、冬開催の通称が“冬コミ”になる

 

■冬コミの新刊は……

さて、冬コミの新刊として「近代出版研究叢書・資料編2」を出すにあたって、まず思い浮かんだのは、自分では結構使えるレファレンスツールと思いながら、掲載誌が品切れのため現在は入手困難な筆名(※2)での旧稿をまとめることだった。

一つは『二級河川』16号(金腐川宴游会、平成28年)掲載の「戦時の企業整備により誕生した出版社一覧 附・被統合出版社名索引」、もう一つは同誌17号(平成29年)掲載の「『公職追放に関する覚書該当者名簿』のメディア関係者・文化人五十音順索引」。前者は戦時、後者は占領期の出版史にまつわるツールなので書名を『戦時・占領期出版史資料索引』とすることにして、これだけではページが少ないので在庫僅少の同誌21号(平成31年)から「出版社の「自社紹介」横断索引――ミニ社史を見つける」を加え、副題を「戦時企業整備・公職追放・ミニ社史」とした。以下、簡単に内容を紹介する。

 

※2 トム・リバーフィールド名義。自分の名前を横文字っぽくしたもの。インターネットに本名を出したくなく、かといって、わかる人にはすぐわかる名前を考えたら、こんなところに落ち着いた

 

■「戦時の企業整備により誕生した出版社一覧 附・被統合出版社名索引」

出版人の戦時中の回想や資料をみていると頻出する単語で、ハテ、と思っていたものに「戦時の企業整備」がある。文脈から察するに出版社の強制統廃合を指すようだ。調べてみると、太平洋戦争下の昭和17年、国家による統制経済を推し進めるため各産業の中小企業の整理統合が図る目的で企業整備令が出された。出版業界もご多分に漏れず、すでに業界団体は日本出版文化協会(昭和15年設立)、取次は日本出版配給(昭和16年設立)に強制統合されていたが、19年4月に至って、ついにそれが出版社レベルにまで降りてきた。このことを指す言葉であった。

それである日、出版人の訃報を探して日配の公報紙『新刊弘報』を見ていると、「戦時の企業整備」により、どの出版社がどこと合併して何という名前になるのかという記事が2回にわたって分載されているのを発見したので、それを整理してみた。これにより統合先172社の一覧と、統合対象となった約1000社の出版社の索引が出来た。

 

 

■「『公職追放に関する覚書該当者名簿』のメディア関係者・文化人五十音順索引」

このツールの発端は、神保町のオタさんがご自身のブログ「神保町系オタオタ日記」の2017年1月10日付のエントリ「関西で公職追放になった二人の出版人」である。その末尾で「ところで、『公職追放に関する覚書該当者名簿』(※3)は、ある人物が戦前何をしていたかを調べるのに有用なツールでもあるのだが、アルファベット順で見づらい。相当の作業になるが、リバーフィールド氏あたりが出版人だけ抜き出して五十音順の名簿を作ってくれたらなあ」と指名されたのだった。

こういう実務は私の仕事だよな、と図書館から『公職追放に関する覚書該当者名簿』の復刻版(明石書店、昭和63年)を借り出してみると、1500ページ超の大冊が現れた。そのコピーを持って会社帰りに最寄りのベローチェに寄り、蛍光マーカー片手に小一時間リストを読み進める日々。早い段階で出版人よりは新聞人が多く、著者や学者なども混じっていることがわかり、せっかくこの大部のリストを見ていくのだからと、出版人に限らずメディア関係者全体に対象を広げた結果、1132人の追放該当者を拾うことが出来た。

最近、オタさんが2022年10月3日付のエントリ「坂本慎一『ラジオの戦争責任』(法蔵館文庫)への「補足」――ラジオ新聞の戦争責任――」で拙稿の補足をしてくれた。この記事では、私が放送メディアとして「日本放送協会」「朝鮮放送協会」「台湾放送協会」の関係者は拾っているが、満洲のそれを見落としていることに気がついたオタさんが、その関係者を拾い上げてくれている。オタさんからは、この記事自体の転載許諾を頂いていたが、実際に編集作業に入るとページに余裕がなく、転載を見送らざるを得なかったため、ここに記しておく次第。

 

 

※3 同人誌に収録する拙稿では、原本の奥付に従って「昭和23年2月刊行」としているが、これは原本が間違っていて、正しくは「昭和24年」の刊行である

 

■出版社の「自社紹介」横断索引

出版人の基礎情報調査の一環として、国会図書館の人文総合情報室で『著作権台帳』第1版(昭和26年)をめくっていると「あれっ、目黒書店やジープ社(※4)の自社紹介広告が載っているぞ!」という(個人的には)大発見をした。また、同じ頃にトーハンの仕入れ情報誌『トーハン週報』に毎年4月に掲載される出版社の「周年広告」の一部に自社紹介要素があること、出版社の業界団体の年史、例えば『社団法人出版梓会五十周年史』(平成10年)などにも会員社紹介があることに気がつき、これらの情報は自分が整理しなければならないと思った。

今回まとめた3つの旧稿は、いずれも自分のために作ったレファレンスツールを公開した物。職業柄、いくつものレファレンスツール製作に携わってきたが、レファレンスツールは誰かのために作るのではなく、まず自分が必要だから作るという原点を噛みしめた3本でもある。刊行にあたっては、それぞれの原稿に手を入れることを考えなくもなかったが、弊社刊行『調べる技術』の製作とその後の対応に追われて、そんな時間は無くなってしまったのであった。

 

 

※4 目黒書店は戦前の教育図書出版大手。ジープ社は戦後、七三一部隊出身の二木秀雄が作った出版社。ともに昭和20年代に倒産しており、これらの自社紹介は貴重な資料

 

■ということで改めて

この本の最初の頒布場所は、「コミックマーケット101」二日目の「東ポ42a」です。

『戦時・占領期出版史資料索引――戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』(「近代出版研究叢書・資料編2」、近代出版研究所、2022)         2000円

 

他の頒布物は以下の通りになります。

『「出版年鑑」掲載全訃報一覧――昭和平成期 著作家・学者・出版人7000人』(「近代出版研究叢書・資料編1」、近代出版研究所、2022) 2000円

『ピンバイス40年史――あるプラモデル屋の歩み』(小林昌樹、2018) ※初版に2頁追加の増補版      1000円

『近代出版研究』創刊号(近代出版研究所、2022) ※発売は皓星社。版元在庫僅少。最後の機会かも?            2000円

『昭和前期蒐書家リスト――趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールド、2019)※クラフト紙表紙とは用紙違いの異装版。中身変更なし。          1650円

『二級河川』26号(金腐川宴游会、2022) ※委託です。特集はライトノベル          500円

 

 

皆様、どうかよろしくお願いいたします。

 

 


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