皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第10回 索引の落とし穴を避ける――明治、大正、昭和期本の見出し排列

小林昌樹(図書館情報学研究者)

 

■インデックスをちゃんと引けてる?

前職で他の図書館で調べたものを更に調べるという仕事があった。その際、他館や他課で調べたとリストにあるアイテム(レファ本)*でも、これは危なそう、と思った場合には、改めて自分でも引いてみるようにしていた。すると、答えがちゃんとその本に出てくることがたま〜にあった。要するに一度引いた人が、実は引けていないことがあるのだ。

本を「読む」でなく「引く」際に重要なのは、インデックス、つまり索引だ。レファ本で言えば見出しの並びのことでもある。本の索引、レファ本の見出しを「ちゃんと」引く、とは、見出しの排列(=配列)規則を理解して、見出しを探し当てる、ということである。

 

■見出しなんて五十音順に決まってる!……ん?

大正期までのレファ本に往々にしてあった排列「いろは引き」ならば、明らかに今と並び方(排列原理)が異なるので、誰だって用心するが、一見「五十音順」のように見え(て実は微妙に違っ)たりすれば、結構間違う。例えば、ある冊子をパッと開いて、次の【図1】ような排列になっていても、「あ、から始まっているから五十音順!」と思ってはいけない。

・図1 『公職追放に関する覚書該当者名簿』(1949)

 

 

安部(あべ)、相田(あいだ)、赤井(あかい)、赤柴(あかしば)、安芸(あき)、秋永(あきなが)、秋山(あきやま)、天晶(あまあき)、甘粕(あまかす)……。なぜ「あべ」が先頭なのか? 「へ」は「い」より前だっけ? 先頭の「安部」だけ誤植なの?

これは出版時期に鍵がある。Abe, Aida, Akai, Akashiba, Aki, Akinaga, Akiyama, Amaaki, Amakasu… と並んでいるのである。つまり、名字の読みの、アルファベット順なのだ。当時はアメリカ占領下なので、こういった索引も自然なのである。図書館でカード形態の蔵書目録も――もう使ったことのある人は中年以上だろう――五十音順でなく、アルファベット(ローマ字)順で並んでいたものが昭和30年代頃まで多かった(洋書は当然、アルファベット順)。

 

■いろはの順番は我々には…

今回は、現在の我々にはヘンテコ順のインデックスをいくつか説明したい。しかしその前に、五十音がいろは順のどこらへんに位置するのかの一覧表【表1】を掲げておく。大正期までの辞書、人名辞典では、いろは順排列が多く、公開が拡大される国会図書館のデジコレなどでそれらを使う際に、五十音順しか知らない日本語人には、いろは47文字(「ん」まで入れると48文字)の中で特定の文字がどこらへんに位置するのかわからないと困る**ので。

 

・表1 五十音のいろは順位表(「ん48/48」は表に示さず)

 

いま、大正期まではいろは順が多いと言った。【図2】の紳士録はその例である。

 

・図2 『日本紳士録 第6版』(1900) 伊藤の下で名前のよみで「か」「よ」「た」と、いろは順になっている。

 

 

この紳士録で「伊藤博文」を引きたければ、【表1】を見て、「ひろふみ」の「ひ」が44番目と確認する。開いている版面に出ている「た」が16番目であるから、もっとずっと後の方をめくらないといけないとわかる。

いい添えておくと、上記【図2】でも「い、ゐ之部」とあるように、いろは順でも、「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」、「お」と「を」は、戦前でも混排(こんぱい:同じものとして等価に扱われ排列されること)が多い。

索引のあるべき姿については、『SIST13:1992索引作成』***といった基準もあり、藤田節子『本の索引の作り方』(地人書館、2019)という名著も出たので、そちらを参照されるとよいだろう。ここでは、逆に「引き方」、つまり、こうでしかない現状日本の索引をどう引くか、いくつか説明したい。

 

■電話帳式

前記、藤田著で「電話帳配列」と呼ばれている排列法。電話帳(正式には「電話番号簿」といった)に限らず、人名辞典、紳士録の類は、戦前から昭和30年代くらいまでのレファ本で、この「電話帳式排列」をしているものが多い。見出し先頭の読み(五十音順)で排列した上で、さらにカナ>かな>漢字(画数順)に並べる方式。例えば職業別電話帳【図3】を見ると、左上「オオタキ(株)」から「オ(お)」「お(お)」「小(お)」「尾(お)」「大(おお)」といった順番に排列されている。二文字目以下も同様に排列したという(掛飛亥一編『能率をあげる電話・電報の使い方』日本法令様式販売所、1960、p.193)。

 

・図3 1970年代末の職業別電話帳

 

 

■字順排列(letter-by-letter arrangement)と語順排列(word-by-word arrangement)

索引の見出しを、五十音順に並べるにせよ、いろは順に並べるにせよ、日本人が意識しづらいのは、並べる際に、文字順だけで並べるか、それとも単語単位で区切りながら並べるかの違いである。

例えば連載第2回でも取り上げたNDL典拠から適当な人名を選び、字順で並べた【表2】と、姓名を区切って(=語順)でならべた【表3】を見比べてほしい。「赤井田拓弥」の位置が変わっていることがわかる。

 

・表2 字順(letter-by-letter順)

 

 

・表3 語順(word-by-word順)

 

 

日本語は読み(排列キー)が非表示になることが多いし、表示される見出し語がたいてい漢字で、漢字は1字が1語である場合もあり、「字順」「語順」という術語はわかりづらい。「文字順」、「ワード順」とでも呼んだほうがよいように思う。

ちなみに、電話帳式に並べ替えるとこうなるだろう。

・表4 電話帳式(かつ語順)

 

 

日本人(日本語人)をやっている自分には、見出しだけを見る限り、実は電話帳式がいちばん引きやすい気がするが、排列キーの自動生成****が難しいせいか、近年は流行らない。また、姓名のように、ワードの区切りが明確な場合はよいが、普通名詞や団体名などのように、区切りが不明確な場合にはワード順の排列は適用されず、読みの字順で排列されることが多い。

 

■百科事典排列vs.国語辞典排列――長母音カウントの有無

五十音で排列する際、長母音をカウントするかしないかという違いでも見出しの排列が大きく変わる。例えば「アーチ」の排列キーは、「百科事典排列」では「あち」となり、「愛国心(あいこくしん)」より後になる。「国語辞典排列」だと「ああち」となり「あいこくしん」より前になる。

・図4 『社会科学大辞典』(改造社、1930)国語辞典配列の例

 

 

【図4】の本では、百科事典的内容なのに、「愛国心」が「アーチ」の後に並んでいるので、これは「国語辞典排列」だとわかる(凡例でもことわっている)。実際にレファ本を引く際には、我々は、どちらか直感的に判断しながら引いているはずである。

 

■「゛」「゜」や「っ」「ッ」などのこと

一般には、濁音、半濁音は排列キーを清音に置き換えて排列し、拗音、促音、外来語の小字は直音に置き換えて排列されている。

・表5 濁音等処理の一般的な排列(国語辞典排列)

 

 

古いレファ本では、たまに濁音や半濁音を排列キーにまで持ち込んで排列してあるものもある。

・表6 濁音等処理の稀にある排列

 

 

■戦前の本にある「活字を組んだ順」のもの

次の紳士録【図5】は、人物情報が版面に組まれているが、その排列はアトランダムにしか見えない。原稿が揃ったものから順次、印刷所に版面を組ませたらしい。最終的に索引(この本では「総目次」と称している)を使うことで引けるようにしたものだった。

・図5 満蒙資料協会編纂『中国紳士録』満蒙資料協会、1942 ※復刻:ゆまに書房2007

 

 

これほどまでひどい排列のものは少ないが、戦前の本では、印刷(版組み)の都合を優先して、なんとなくのいろは順、なんとなくの五十音順で排列した人名辞典類を見かけることがある。その場合は「根性引き」(人の目でスキャンすること)をすることになる。

 

■さいごに

他にも、明治初期には、タイトルの画数順で引く蔵書目録『東京書籍館書目』なども出たり(確かに読みがわからなくても引けることは引ける)、インデックスをめぐるドッタンバッタンは面白くも悲しいものがあるのだが、一部のレファレンス実践家が体得しているだけで説明されない傾向にある。そもそも日本語の表記体系が複雑怪奇――重層性とでも言うべきか――なのが原因と思うが、それについては、紀田順一郎『日本語大博物館:悪魔の文字と闘った人々』(ちくま学芸文庫、2001)あたりを読まれたい。

本の著者、編集者、ライターなどで、索引を作る側のノウハウを知りたい向きには、前記の藤田著やSIST13を見るのがよいだろう。

 

* レファレンス報告についている「何を参照したかリスト」は、形式的には「特定の本をボクは見たよ。アナタはもうそれを見なくていいよ」ということを知らせているようでいて、その実、そうそう単純に受け取ってはいけないのだろう。受け手はそのまま受け取るのではなく、どのような探索戦略を前任担当者が採ったのかを読み取るべきと思う。

** 「いや困らないよ、我々だっていろはを唱えればいいぢゃん」という意見もあるが、前の仕事に「電話レファレンス」というものがあり、5分以内に何らかの回答を――「これこれを見たが見当たらない」という回答を含め――しないといけないことになっていた。明治大正の紳士録などは普通にパッと引ききれないといけないのであった。

*** 科学技術情報流通技術基準(SIST)とは理系がメインの書誌記述の基準。その13番目は索引作成についてである。

**** 何も考えないとJIS漢字順などという索引ができたりする。2バイト文字が検索できるDBが開発されるようになってから(1990年代後半からか)、排列に関する知識が司書にすら無くなってきた。無くても済めばいいのだが、そうはいかないから困る。

 

■次回予告

レファ協事例の読み方をやります。NDLが2002年からやっているレファレンス事例DBだけれど、日本のレファレンス事業がらみで他に希望がないため、褒められるばかりで批評がない。あれって本当に役に立つの? 1980年代までのNDLなら館内同人誌でたちまちそんな疑問が出たでしょう。理事者、納税者からよく出るレファレンス批判のひとつに「ただのトリビアリズムに税金を使ってはダメでしょう」というものがあります(正確には、その人にしか役立たない回答なら課金すべきという論理)。レファ協記録が、ただ一回こっきりの記録で終わってしまえば、その批判が当たってしまいます。

ただの一記録、一事案が、事「例」として使えるような読み方が必要な所以です。

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務。2021年に退官し慶應義塾大学文学部講師。専門はレファレンス論のほか、図書館史、出版史、読書史。共著に『公共図書館の冒険』(みすず書房)ほかがあり、『レファレンスと図書館』(皓星社)には大串夏身氏との対談を収める。詳しくはリサーチマップ(https://researchmap.jp/shomotsu/)を参照のこと。

 

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