皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

神保町のんしゃら日記1 晴山生菜(皓星社)

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この日記連載は、私が『歌誌月光』に連載しているものです。今回からメルマガにも掲載することにしました。本誌は紙幅のつごうから、もう少し短いものになっています。ある出版者の日常ということで、ご笑覧下さい。

 

2023年12月4日(月)今日も葉山から神保町へ。新巻『古本乙女、母になる。』下版日。カラサキ・アユミさんの5年ぶりの新刊にして初のこのエッセイ集はタイトル通り世にも珍かな女性古本マニアのエッセイ集だが、マニアにしか通じない話は一切ない。母親である自分と、好きなことを追いかける自分の間での葛藤が、重苦しくなく実に鮮やかに描かれている。古本には全く関心がないに関わらず、絶妙な距離感でともに歩む夫氏のキャラクターも最高なのだ。カラサキさんがゲラと一緒に送ってくれたイラストや漫画を全面にたのしくちりばめた。売れてくれますように!

7日(木)書楽阿佐ヶ谷店閉店までの間、新刊の松本純著『阿佐ヶ谷歳時記』を先行販売してもらえることになる。来年1月に見本ができる予定だったけど、圧縮して年内に作ることに。松本さんは、阿佐ヶ谷の名酒場・だいこん屋のご主人。これはなんとしても間に合わせなくては。すぐに頭のなかで日程を逆算。

8日(金)書楽の件は、先行販売分を300部作り、発売じたいは1月のままですすめることになる。その前提で装丁の間村さんにも承諾を得、松本さんの知己の協力者のKさんIさん(だいこん屋の常連さん)にも、日程変更への対応をお願いする。さいわい皆さん大変好意的に対応してくださる。有難い。

9日(土)午後、十年来の友人たちが自宅にやってきて忘年会。20代のある一時期、このグループで一冊の写真集を作った。休日の朝から晩まで一緒にいて夜は雑魚寝、そのはちゃめちゃさが楽しかった。10年近く経って環境が変わっても、皆、遠すぎない場所でそれぞれに働き、暮らしている。呑みながら深更まで話し続ける。

13日(水)国会図書館に籠って『阿佐ヶ谷歳時記』の引用照合の漏れを潰していく。デジコレのリニューアルで、引用の照合が格段にしやすくなった。本当に有難い。出版者は国会図書館の変化に異議申し立て(出版者の既得権を擁護)するより、これを活用することを考えたほうが断然いい。作業は明日もつづく。

15日(金)月光編集会議。岡部隆志先生もオブサーバーとして来てくださる。終了後、朝まで『阿佐ヶ谷歳時記』ゲラの直し。IさんKさんの指摘も反映させる。途中たまらず寝落ちしたがほぼノンストップ。

16日(土)夕方までに修正完了。下版までにあともう何度か全体を通して見れば大丈夫、というところまでくる。でもとにかく眠い、今日は帰ってご飯を食べてさっさと寝よう……と思ったのだけど、家には注文していたiPadが届いていて、新しいガジェットにテンションがあがってつい遊んでしまう。手描き文字の認識精度が想像以上に高い。メールや日記もある程度まで手書き→活字で行けそう。

17日(日)『阿佐ヶ谷歳時記』の最終確認。明日から久しぶりの出張。

18日(月)ライターの南陀楼綾繁さんと「日本の古本屋メールマガジン」の取材で、滋賀県へ。この日は、江北図書館館長の久保寺さんが営むあいたくて書房へ行き、 夜は能美舎の堀江さん宅で開かれる「イカハッチン」(湖北地方=旧伊香郡に移住した女性たちのグループ)の忘年会にお邪魔する。鮒寿司、鯖のへしこ(いずれも堀江さんお手製)など地元の発酵食品や、鴨鍋をいただく。どれも日本酒に合う合う。今度へしこは自作してみよう。イカハッチンの皆さんとその子どもたち、エネルギーに圧倒される。(そのごお土産で鮒寿司を買って帰ったが、堀江さん手製のものの方が好みだった。これも今度作ってみたい)

19日(火)江北図書館取材。昔の宿直部屋や五右衛門風呂など、表からは見えない部分も見せてもらう。表にも裏にもいたるところに本がある。なんと江北図書館、これまで一度も除籍したことがないのだそうだ。開館以来の本、業務日誌など、館の歴史にかんする資料も見せてもらう。日誌からは利用者の傾向、要望、記入者が課題だと思う点などが書かれていて、当時の木之本市民の読書のあり方が分かる。お昼に駅前の「福田屋」さんで鍋焼きうどんを食べ、ますや書店、いわね書店(夫人は、かつて日本一百科事典を売った人だという)へ行いく。昨日行ったあいたくて書房さんも、おなじ通りにある。この小さな通りに、3つものブック・スポットがあるのだ。久保寺さんの案内で彦根の滋賀大学へ。滋賀大学に一部寄託している江北図書館の資料を閲覧。(この日、江北図書館を取材した記事はこちらをご覧ください。)
終了後は、市内の古本屋の半月舎さんを見にいく。そのまま店主のみこしばさん夫婦と「元気の出る中華屋」で夕食を。1品がすごい量で、4人で一人当たり1600円でおなかいっぱい。お二人は今度半月舎の近くの旧銭湯「山の湯」をリノベーションして、古本&レコードショップをやるのだそうだ。女湯に入ると古本、男湯に入るとレコードだとか。なんだ、その面白空間は!その、面白いに違いない店を見にまた滋賀に来たい。今回ですっかり滋賀好きになってしまった。次は琵琶湖もゆっくり見たい。

22日(金)『阿佐ヶ谷歳時記』カバーの色校正が出来てきている。夕方、間村さんの事務所へ。

23日(土)近代出版研究所の忘年会。研究所長の小林昌樹さん、所員の森洋介さんといった面々をはじめ、学問的な仲間が入れ替わり立ち替わり遊びに来てくれる。トータルで20人くらい? 今日あつまった人たちと新しい企画も考えたい。間に、間村さんからの色校正回収を挟み、郷酒の忘年会へ。昼から飲みどおし。

24日(日)千葉の妹の家へ。ジロリアンである妹のパートナーが、自作の二郎ラーメンをご馳走してくれる。野菜やガラから丹念にスープをとった、たいへん凝ったラーメンは美味しかったが、とにかくしょっぱい! とかなんとか言いながら、チャーシューやら、スープ類をお土産にたくさんもらう。しかし、これを研究するために、月に10回もラーメン二郎に通っていたら体をこわすのでは? Hさん、くれぐれも身体を大事にしてください。

27日(水)『阿佐ヶ谷歳時記』見本ができてくる。年末のギリギリの日程のなか、精文堂印刷さんが頭出しの300部を年内に仕上げてくれた。今年も本当にお世話になりました。すぐにだいこん屋さんと、書楽さんへ走る。

28日(木)仕事納めをして、夕方の新幹線で岩手に帰省。今日から1日まで。母が友人からもらった松茸酒(地酒「鷲の尾」に、山歩きで採った小さな松茸を入れて、2週間以上熟成させたもの)を呑む。ふくよかな松茸の風味!

29日(金)昼から友人Nと会う。高校生のころから、私たちの待ち合わせはいつもさわや書店だ。おしゃべりしながら盛岡市内をぐるりと散策して半日すごす。盛岡のまちは程よい大きさで、ゆっくり散歩して歩くのにちょうどいい規模感なのだ。
さわや書店フェザン店から出発して、本店をのぞき、盛高商店(古本屋さん)にも行ってみる。盛岡市内の古本屋としてはおそらく一番新しい店。半年ほど前に来た時と本の感じが(いい方に)変わっている。去年閉店したきりん書房の整理を手伝っていたそうだから、在庫も引き継がれたのかもしれない。『本の装い』(岩手県立博物館第49回企画展図録)を会計に持って行ったら、「この本1000円ですけどいいですか?」ときかれた。100円の本が多いから、間違えたのではないかと思ったのだろう。これは岩手県の装丁家のことや地元で流通していた出版物のことが外観できる図録。1000円でまったく問題ないです!
そこから、白沢せんべい店(いくつかの南部せんべいの会社のなかで一番好き)(※)に行ったり。それにしても、ふたりとも、ずいぶん遠くまできたもんだと思う。制服でシャボン玉をしていたわたしたちがはるかか遠い。夜は、明日の餅つきのために、胡麻と胡桃を摺ってタレを作る。
(※)2023年末、白沢せんべい店が仕入れている南部小麦が、カビ毒の基準値を超えていることがわかり、一時営業停止されていたようです。年末には営業再開されていました。私のお勧めは「賢治の世界」という詰め合わせ。

30日(土)家族で恒例の餅つき。今年は雫石町の祖父母の家で3升ほどつく。餅米を蒸す3段蒸し器が2段しかないので、1段どこに行ったのか聞くと、家の前の小川でうるかして(水に浸けておくこと)いたら、どんぶらこ流れていってしまったという。日本昔物語を地でいく祖母である。ついた餅を食べて、百人一首をして帰る。家に帰ると、母の友人のネギ王子(ネギ農家なのでそう呼ばれている)からお歳暮の門崎牛が届いていた。これまた別の友人から冷凍の松茸もやってくる。大晦日の夕食は貰い物で作ったすき焼きになる。もらい性は親ゆずりか。

31日(日)昼過ぎにパートナーのIが岩手に着く。毎年、大晦日こちらで、次の日にIの実家に行くのが恒例になっている。午後は、やはり恒例のそば打ちをして、早々にお風呂に入って例のすき焼きをする。紅白歌合戦が流れているが、私はふだん音楽をほとんど聞かないので、音楽の流行がわからない。詳しい妹にあれこれ教えてもらう。わが家の大晦日は皆で食事(たいてい鍋)をした後、年を越す瞬間に、その日に自分たちで打った蕎麦(かけそば)を食べるというもの。蕎麦はつなぎを少なめにするので、不恰好な蕎麦だが、自分で、しかも打ちたてのそばはすごく美味しい。不恰好でも、今年/来年も懸命にやろうと思うのだ。