2002.1.29  No.34
■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
隔週刊行
                                    発行所 株式会社 皓星社
                      編集長 佐藤健太
                   info@libro-koseisha.co.jp
                         http://www.libro-koseisha.co.jp
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●刊行のお知らせ
 植民地教育史研究年報04『植民地教育の支配責任を問う』
●書評再録 木村哲也「書評『寺島萬里子写真集 病癒えても』」
●編集後記

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●刊行のお知らせ
 植民地教育史研究年報04『植民地教育の支配責任を問う』
 日本植民地教育史研究会 編著
 A5判・並製・360頁 定価2,000円+税
 ISBN4-7744-0312-1 C3337
 2月5日発売

   2001年、『新しい歴史教科書』(新しい歴史教科書をつくる会編)
 をめぐって起こった大論争。教育と教育史研究に携わるものがは
 たす責任として、歴史教科書問題と植民地教育を特集する。
  昨年、あまりにも突然逝ってしまわれた小沢有作先生(植民地教育
 史研究会初代代表)の、絶筆となった遺稿「歴史教科書問題に寄せ
 て」も収録。本稿は『新しい歴史教科書』を「アジアに背を向ける
 歴史教育」と批判。問題とされるべきは歴史観であり、検定の強化
 ではないとし、教科書検定にも廃止を求める。
 以下、特集の目次をご紹介いたします。

<特集 歴史教科書問題と植民地教育>
『新しい歴史教科書』批判
 アジアと共に歩む歴史教育
   ――「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書にたいする
   見解――…日本植民地教育史研究会運営委員会
 「アジアの孤児」をつくる歴史教科書       …宮脇弘幸
 植民地支配責任は語られなかった
   ――『新しい歴史教科書』の歴史記述を問う――…佐藤広美

歴史教科書問題に思う(エッセイ)
 不寛容の時代を生きる――歴史教科書問題に思う――…楠原 彰
 歴史教科書の問題に寄せて             …蔵原清人
 大東亜会議「共同宣言」と国連「植民地独立付与宣言」について
                         …弘谷多喜夫
 〈新自由主義〉と日本版「歴史修正主義」     …松浦 勉
 「新しい歴史教科書をつくる会」の言動を見て思ったこと
                         …劉 麟玉
 東アジア史における日本への歴史認識       …中野 光

歴史教科書問題の背景を考える
 「教科書」を問う 歴史を問う          …佐野通夫
 近年の教科書政策と歴史教科書問題        …井上 薫

同書に関する詳細情報はこちらへ。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1143.html

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●書評再録 木村哲也「書評『寺島萬里子写真集 病癒えても』」
 木村 哲也(神奈川大学非常勤講師・日本近代史)
 
  2001年5月11日、ハンセン病回復者による国家賠償請求裁
 判の判決が熊本地裁で下り、原告が全面勝訴。裁判所は、国が進
 めてきたハンセン病者の強制隔離政策の誤りを認め賠償を命じる
 という画期的な判決を下した。これを受けて国側は控訴を断念、
 判決が確定。以来、マスコミでは連日のようにハンセン病者の受
 けてきた被害の実態が報道され、それによって多くの人が、初め
 てこの問題の深刻さを受けとめることとなった。
    しかし判決からわずか半年。現在ではマスコミの報道も、あれは
 一時のブームだったといわれても仕方がないほどの希薄なものと
 なり、多くの人の頭の中からこの問題は忘れられようとしている。
 そんな風潮に、静かに楔を打ち込むかのような、本書の重みであ
 る。著者は75歳の元医療従事者のカメラマン。1996年から、
 群馬県草津にある国立療養所・栗生楽泉園を取材し、多数の写真
 と、13人の入園者の聞書きをおさめている。

   片足を切断され義足を履く足、手が麻痺しスプーンで囲碁を打つ
 手、失明し点字を舌で読む横顔、断種政策によって子どもができ
 ないため人形を我が子として暮らす夫婦、職員によるマッサージ、
 入園者によるカラオケ大会、園内のお祭りで神輿をかつぐ職員、
 夫の葬式、教会での礼拝、…患者たちの当たり前の日常を活写し
 た写真の数々。どれもみな、一過性の報道では知ることのできな
 い、生活に密着して初めて撮り得るものばかりである。
   「この人達のお話を微に入り細にわたって聞いていると、(略)
 健康だった頃の思い出から、発病後入園にいたったいきさつ、家
 族とのつながりなどの話が多く、入園後の園内生活の悲惨さなど
 に話が及ぶことはあまりなかった」(59頁)。
   そうなのだ。じつは私も、ハンセン病療養所の入園者の皆さんを
 訪ねては、過去のライフヒストリーをうかがう作業をここ6年、
 裁判の始まる以前からおこなってきた。療養所の生活の束の間の
 自由、職員や療養所外の人々との交流、趣味への打ちこみ…等、
 話題は豊富だった。そんななかで気になったのは、裁判が始まった
 のを機に、原告に加わられた方のお話が、だんだん単調になって
 いったことだった。おしなべて、国家からいかに非道な仕打ちを
 受けてきたか、それだけしか語らなくなっていったのである。

   しかし、あの判決!これでようやく、元患者の皆さんが、裁判だ
 けに縛られずに、自らの人生を自由に語り出すかもしれない。そ
 の声にじっと耳を傾けることが必要だ。療養所の内外の者同士が
 出会ってつづける息の長い対話。それこそが、悲惨な隔離政策に
 よって失われたお互いの時間を取り戻すことにつながっていくの
 だと思う。本書はそれを先駆的に示す貴重な仕事である。

 (「神奈川大学評論」第40号、2001年から再録)

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●編集後記
   大変お待たせ致しました。『植民地教育史研究年報04』がとうと
 う刊行です。歴史教科書問題に関心をお持ちの方は必読の一冊で
 す。排外的なナショナリズムの言説がいたるところで飛び交って
 いる現在、旧植民地の歴史を検証する作業はますます重要なもの
 になってくるでしょう。

   木村哲也さんによる書評を転載させていただきました。ご承諾く
 ださった木村さん、「神奈川大学評論」編集専門委員会に感謝致
 します。木村哲也さんは日本近代史専攻。駐在保健婦制度の歴史
 的展開を追究する気鋭の研究者です。またハンセン病の歴史や宮
 本常一氏についても独自のアプローチを行っています。

   最近、書店で犬に関する本をよく見かけます。『ニッポンの犬』
 もいいけど、カレル・チャペック『ダーシェンカ あるいは小犬
 の生活』(SEG出版、1995年)、やはり犬の本はこれに尽きる!
 おお、可愛すぎるぞ、ダーシェンカ。ところで同書は初版が19
 33年(チェコ)、本邦初訳は、秦一郎訳『だあしゑんか 仔犬の
 生ひ立ち』(昭和書房、1934年)で序文を佐藤春夫が執筆。
 数年前、古書展の目録で見かけたけどあまりの高額にあきらめま
 した……。またの出会いを心待ちにしているのだけれど、いった
 いいつ手に入れることができるのだろう。チャペックについては
 以下のホームページをご覧ください。

成文社ホームページ>チャペック
http://www.seibunsha.net/capek/capek.html

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