2001.3.27 No18
■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
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◆◆ 皓┃星┃社┃通┃信┃          ◇2001年3月27日号 No18◇
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隔週刊行(頻繁に増刊の予定ですが……)
                                    発行所 株式会社 皓星社
                  編集長    川尻 絵馬
                166-0004東京都杉並区阿佐谷南1-14-5
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【目 次】
1.海坊主と美少女――竹中英太郎氏のこと             備仲臣道

2.皓星社から
    
◎編集後記
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☆ さて今回は、好評だった14号の「一卵性親子――甲府時代の竹
中英太郎さん、労さん」の備仲臣道さんに再登場ねがいました。テ
ーマはもちろん竹中家です。

皓星社通信14号はこちらから。読みのがした方はぜひどうぞ。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top11/top11.html
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海坊主と美少女――竹中英太郎氏のこと                備仲臣道


 評判の美少女・竹中紫を見に行くという友人について行ったのが
私と竹中英太郎との初対面であった。紫は竹中労の下の妹で1959年
のその当時ミッション系の高校へ通っていたが、彼女がやって来る
と周囲がぱあっと明るくなるほどの美貌であった。

 私と友人は甲府市日向町の竹中家の見える路上で待った。やがて、
玄関の格子戸が開いて出て来たのは、ハンチングを目深にかぶり、
厚いコートに身をくるんだ容貌魁偉な親父であった。後ろ手に格子
戸を閉めて、ぐいっと周囲に目を配ったところは一時代前の探偵小
説から抜け出たように見えた(むろん、探偵ではなく、怪しげな男
の方であるが)。たとえ紫ちゃんと相思相愛の中になっても、許し
を乞うために会いに行く気はとてもしないような恐ろしげな親父が
そこにいた。

 昭和初期の10年ばかり江戸川乱歩、横溝正史などの探偵小説の挿
絵画家としてもてはやされていた英太郎は、1943年突然絵筆を
折り、妻の生家のある山梨に隠遁してしまった。以来、彼は山梨日
日新聞の労働組合を足場に右派の労働運動指導者として頭角を現わ
して行き、山梨県地方労働委員会の委員や県労協の書記長になって
行った。少年時代九州で部落解放運動や炭鉱に潜入して活動し、関
東大震災時の大杉栄虐殺に際しては、報復の要人暗殺を企てて上京
したことのある彼は、生来身の内に矯激なものを抱えており、地方
労働委員会の席上激論した相手の資本家側委員を張り倒してしまう
ということもあった。

 一方で、社会党、民主党を巻き込んだ保革連合を形成して官選知
事を叩き落とし、民選知事を誕生させる運動の中軸を担った英太郎
は、それを境に山梨県政の中に隠然たる勢力を張って行くことにな
る。やがて彼は、労働運動ばかりではなく諸々の揉め事の中に身を
投じて行く。血が騒ぐのをいかんともし難いと言った風情であった。
揉め事の解決の中で、あるいは利権と結びついて英太郎が巨額の金
を懐にしたと人は噂した。

 そういう怪人物に私が会うことになったのは1969年3月に降
って湧いたような山梨時事新聞の廃刊劇の中においてであった。時
事新聞の株の52%をこともあろうに対抗紙の山梨日日が入手した
ことに端を発するのだが、私はそのころ山梨時事労組の書記次長で
あった。組合が企業閉鎖と全員解雇に反対して立ち上がると同時に、
外部では農民文学の作家・山田多賀市が支援共闘を結成していた。
その軍師に招かれたのが英太郎だったのである。委員長多忙のある
日、代理でその会議に出た私は、10年ぶりに美少女・竹中紫の親父
と再会したのを知った。

 「組合はなにをしているのかね」
 英太郎は私に詰め寄って言った。それまで再三にわたって委員長
に授けた作戦が一つも実行されていないのに業を煮やしていたので
ある。
 「 いいかね備仲君、邪魔な管理職は全部縛り上げてどこかへ閉じ
込めてしまいなさい。そのうえで毎日毎日、新聞紙上を使って山梨
日日や資本家の悪辣な企みを暴露するんだよ」
 分厚い斧が油光りするような迫力で彼は迫って来た。以来一年間、
私たちは共闘することになり、結局闘いは敗北に帰すのであるが、
その間、英太郎はまさに支援共闘の顔となった。私たちが甲府市議
会の委員会室を占拠して闘った時にも彼は一緒であった。

 しかし、と私はよく思ったものである。こんな海坊主のような男
のどこを取ったら紫のような美少女が生まれるのだろうか。その疑
問は、ある日、英太郎の妻・つね子に会った時、手品の縄がほどけ
るようにするりと解けてしまった。


【関連リンク集】
探偵名画館への招待 
http://www.inv.co.jp/~naga/takenaka/sashie.htm
山梨の風土・文化について
「山梨文藝協会」ホームページ……備仲さんも会員です!
http://fkoktts.hoops.ne.jp/bungei_kyoukai_door.html
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皓星社から

● 青山ブックセンター本店で、ブックフェア「畸人伝」が開催
されています。
 映画人や革命家、文豪の評伝まで、古今東西の「畸人」の本が
集められています。見ているだけでも楽しめる品揃えは青山ブッ
クセンターならでは。皓星社の『黒旗水滸伝』、『南天堂』も並
んでいます。開催は4月上旬まで。

青山ブックセンター本店
住所:東京都渋谷区神宮前5−53−67
      コスモス青山ガーデンフロア(B2F) 
電話番号:(03)5485−5511 
営業時間:10:00〜22:00 
http://www.aoyamabc.co.jp/
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【編集後記】
● 3月も終わりに近づき、図書館様からの電話も一段落。今年度
は『隠語大辞典』のお問い合わせを多くいただきました。改めてじ
っくり頁を繰ってみると、これがけっこうおもしろい。とくに巻末
の索引は地域名や使用集団などからも調べることができ、思わず時
のたつのを忘れました。なんちゃって、手前味噌ですみません(で
も、ホントの話)。
ご興味おありの方は、お近くの図書館、または下記アドレスからご
覧ください。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/top03.html

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