2001.3.8 No15
■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
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◆◆ 皓┃星┃社┃通┃信┃           ◇2001年3月8日号 No15◇
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隔週刊行(頻繁に増刊の予定ですが……)
                                    発行所 株式会社 皓星社
                  編集長    川尻 絵馬
                166-0004東京都杉並区阿佐谷南1-14-5
              TEL03-5306-2088    FAX03-5306-4125
                   info@libro-koseisha.co.jp
【等幅フォント推奨】     http://www.libro-koseisha.co.jp
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【目 次】
 1.【阿佐ヶ谷歳時記】初糶り            松本 純

 2.皓星社から
   ●築地の書店――墨田書房築地店さん
   ●『隠語大辞典』ホームページのご紹介がリニューアル!
   
◎編集後記
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☆ 久しぶりの発行となってしまった皓星社通信15号。「すずしろ
句会」を主宰する阿佐ヶ谷 「だいこん屋」 ご主人、松本純さんの
「阿佐ヶ谷歳時記」からお届けいたします。
さあ、季節を、草花の話と俳句で存分に味わってください……
と申し上げたいところですが、担当川尻が今冬2度もカゼをひいた
ため、掲載が大幅に遅れてしまったのです。春を目前に、話題は初
糶り。鮮度を落とした責任は、平にご容赦。松本さん読者のみなさ
ま、どうぞお許しくださいませ。
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【阿佐ヶ谷歳時記】初糶り               松本 純

  年末の頃から、臘梅(ろうばい)、寒紅梅、寒木瓜などが少しず
つ花をひらき、新年を迎えるのですが、その他に咲いている花とい
えば、寒椿、山茶花、佗助、茶といったツバキ科の花がほとんどで、
あとは咲き残っている、ビワ、ヤツデ、冬ザクラ、冬バラくらいな
ものです。草花も、水仙と何種類かの冬菊のみで、日溜りの雑草が
咲くまでにはまだ間があり、1月は一年で最も花の少ない季節でし
ょう。
  そこで今回は少し趣を変えて、目先を魚に転じ、去る1月5日、
東京築地魚市場で、 初糶りとしては史上最高値をつけた本マグロ
(黒マグロ)について書いてみます。

  それまでの初糶りの最高は1尾850万(年月、体重不明)だっ
たのですが、今回の鮪は12月29日に青森県大間崎近くで、小型
の延縄にかかったものです。体重202キロは、500キロくらい
にまで成長する本マグロとしてはさしたる大きさではありませんが、
初糶りという雰囲気もあって、なんと2020万円の値がついてし
まったのです。この間の事情については、週刊新潮2月1日号に詳
細が書かれているのですが、この1キロあたり10万円のものを、
さる鮨屋さんが1キロ6万円で60キロ仕入れたものの泣いている
(儲けにならない)そうですし、糶り落とした仲買人も1000万
円以上損をしたという、まったくおかしな話なのです。

   一本六百万円の大まぐろなり糶始  尾村馬人
      
  歳時記の冬の部に、河豚(フグ)、鮟鱇(アンコウ)、鰤(ブリ)
などの魚とともに、鮪が立項されていますが、これは元来本マグロ
を指しています。英名ではBluetin tunaと呼ばれ、大西洋地中海型
黒鮪(学名 thunnus thynnus thynnus)から分化したもので、イン
ド太平洋型黒鮪(学名  thunnus thynnus orientalis)として分類
されている鮪です。沖縄から台湾附近で産卵孵化したものが、黒潮
に乗って成長しながら日本沿岸を通って、一部はさらに北米太平洋
岸近くまで達した後に成魚となり、産卵のためにふたたび日本沿岸
へ帰ってくるのです。この小型の成魚を、関西ではヨコワ、関東で
はメジと呼び、ほとんど周年にわたって日本沿岸のどこかで漁獲さ
れており、一部の歳時記では春の季語としていますが、例句も見当
たらず、季語として立てるのは無理のようです。

  日本では古来、鮪のことを「シビ」といって、茲寐と書いたりも
しています。『日本書紀』武烈天皇の代に、朝臣平群鮪臣(ヘグリ
シビオミ)の名が見えますが、昔、中国で鮪と書けば、その卵がキ
ャビアになる淡水産の巨大な硬骨魚チョウザメのことを指したので
す。長安とか洛陽など黄河上流に都があり、海の魚など知らない人
たちが、黄河で一番巨きな魚に王鮪という名を冠せてこれを讃えた
のでした。『礼記』の月令に、「季春天子鮪を寝廟に薦む」とある
のももちろんチョウザメのことなのです。明の時代に時珍が大成し
た『本草綱目』以前から、日本には中国の古い本草学の書が数多く
渡来しているのですが、その中の「鮪」を日本で一番巨きな魚であ
るシビに当ててしまったのです。もちろん当時の日本人は、蝦夷地
なる石狩川や釧路川に、本当の意味での鮪が棲息していたなどとは
知る由もありません。古来中国には、マグロに当たる文字がなく、
近世になって「金□魚」(□=金偏に倉)を使うようになったとの
ことです。また、 『大漢和辞典』 の「鮪」の項には「■の別名」
(■=魚偏に尋)とあり、■を引くとチョウザメが第一義となって
います。

  歳時記の鮪の副題として、日本沿岸で獲れる「目鉢(メバチ)・
鰭長(ビンナガ)・黄肌(キハダ)」などの鮪が載せられています
が、これらは本来の鮪の拡大解釈として出されているだけで、季節
感もなく、例句も見当たりません。大体魚の王者たる鮪そのものが
俳句の世界では他の冬の魚に較べて格下の感があり、名句らしいも
のは一つもありません。

     鮪糶る男の世界覗きけり  鈴木真砂女
     大物にひまどりながら鮪糶る  福本鯨洋
     手鉤かけ投げ出す鮪丸太めく  柴田白葉女

  これらの句は、皆、魚市場の実景を述べたのみで、他の魚の句に
較べて、その優劣の差は歴然としています。


【編集部注】
JIS コードにない文字は□または■で表し、その後のカッコ内に偏
と旁を入れました。

【関連リンク集】
ザ・築地市場
http://www.tsukiji-market.or.jp/
まぐろあれこれ
http://www.hokkatsu.or.jp/arekore/index.htm
せり人紹介
http://www.tsukiji-uoichiba.co.jp/serinin.htm
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☆ この話題についてのご意見ご感想、情報をぜひ掲示板に!
http://www.libro-koseisha.co.jp/top09/top09.html
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皓星社から

● 築地の書店さん
松本さんの「阿佐ヶ谷歳時記」にも登場した東京築地魚市場。「築
地」と聞けば、新鮮なお刺身や寿司を連想して、ついニヤニヤして
しまいます。その築地魚市場にも書店があるのをご存じでしょうか。

築地市場内8号館にあるのが墨田書房築地店さん。もちろん、お客
様は市場関係者が中心で、水産関係や料理の本などを重点的に扱っ
ています。で、なぜか、皓星社の『隠語大辞典』をたくさん売って
頂いています。市場の関係者は、『隠語大辞典』に、なぜ関心があ
るのか、どんな使い方をしているのか、とても興味があります。

一度ご挨拶と思いながら、「市場内は危ないから来ないようがいい
よ!(笑)」と店長の小林さんに脅されて、実はまだいったことが
ないのです。何が危ないのか怖いものみたさで、一度お伺いしよう
と思っているのですが……。
こちらのユニークな墨田書房さん、閉店時間はなんと午後1時(!)。

☆墨田書房築地店
東京都中央区築地5−2−1 中央卸売市場内
電話 03-3542-2827
営業時間 6:00〜13:00

● さて、その『隠語大辞典』ですが、年度末に向けて図書館様か
ら多数ご注文いただいております。図書館様のほかに、誰もが知っ
ている作家のあの先生、この先生にもご購入いただきました。
ホームページのご紹介コーナーもリニューアル。内容見本など、よ
り詳細な情報をご覧いただけます。

たとえば……「赤犬をけしかける」――意味がわかりますか?
答えは下記のアドレスから、『隠語大辞典』内容見本をどうぞ。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rbingo.html
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☆ 皆様のご意見ご感想、情報をぜひ掲示板に!
http://www.libro-koseisha.co.jp/top09/top09.html
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【編集後記】
●旧聞再録 2001年2月7日『朝日新聞』

慶大、英に研究所
 海外に初/今春開設 資料などデジタル化

【要旨】慶大は4月からNTTなどと協力し、イギリスに文献・資料の
デジタル化を中心とした研究所を開設。この慶大初の海外研究所は
「慶応大学ナウトンコート・キャンパス」といいケンブリッジの近
く。慶大は、1996年所蔵のグーテンベルク聖書をデジタル化、大英
図書館のグーテンベルク聖書のデジタル化も行い、この分野に実績
がある。こうした分野での、資料のデジタル化・シンポジウム・イ
ギリスとの共同研究・資料の一般公開が期待されるというもの。

この慶大と大英図書館のグーテンベルク聖書は、下記の皓星社オン
ライン・アーカイブから見ることができます。グーテンベルクなど
のキーワードかカテゴリーのキリスト教から検索してください。パ
イロット電子図書館のアクセス制限は「guest」で入れます。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top12/top12.html

●松井りゅうじ『レプラなる母』出版記念会のお知らせ
高史明さんやらい予防法国賠償訴訟の原告も見えます。
飛び入り、当日歓迎。
日時 3月16日 18時30分から20時30分
場所 市ヶ谷 アルカディア市ヶ谷 私学会館
会費 8000円(『レプラなる母』一冊献呈)

『レプラなる母』およびらい予防法国賠償訴訟に関するリンク
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1137.html
アルカディア市ヶ谷 私学会館アクセス
http://www.all.co.jp/bridal/shikijou/tokyo/23/sigakumap.html

● もともと身体は丈夫なほうですが、今年はカゼに完敗です。特
に2月中旬からは声がすっかり嗄れてしまい、「皓星社でございま
す」という電話での第一声もまるで『犬神家の一族』。電話の向こ
うで、相手の方が一瞬返答につまっているのがよくわかりました。
みなさま、びっくりさせてすみません。

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