四十三年

四六判・並製・266頁 定価1,600円+税
2006年12月発行
ISBN4-7744-0414-1 C0095
装丁 藤巻亮一
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四十三年――母が子に語る中国残留の半生
語  り 中川佳子
聞き書き 正  安
日本語訳 斎藤裕子


中国残留婦人のライフストーリー
戦争末期に満洲へ渡ってから日本に定住するまでの激動の四十余年
語り継がれる戦争の記憶


 中国残留婦人や残留孤児をめぐる記憶の「語りの場」は多様なものでした。……その語りにも多様な物語がありました。ただ、二〇〇二(平成十四)年に始まる残留孤児や残留婦人による国家を相手取った国家賠償請求集団訴訟が全国で展開されると、いわば「裁判の語り」ともいえる語りがモデル・ストーリー(標準的、模範的語り)として残留孤児や残留婦人の語りを席巻していきました。弁護士や裁判支援者が聞き取り残留孤児や残留婦人が語る「裁判の語り」は、全国の中国帰国者のなかに広く受け入れられていったのです。しかし、中川さんの語りは、この「裁判の語り」とは離れたところで展開されています。裁判に関しては一言も語られませんし、戦争やソ連兵は恨みますが、国家への恨みは語られません。裁判の語りも残留孤児や残留婦人の語りのひとつですが、それとは異なる中川さんの語りもまたその普遍的な語りのひとつだと思われます。

……息子の正安さんが母の数奇な人生に関心を持ち、自然にその聞き書きがはじまったところが、この「記憶の語り」の大きな特徴だと言えます。聞き書きは、語り手の生きられた歴史(物語り)に興味を持つ聞き手によって共同して構築される「記憶の語り」です。そしてそこから、当事者によって語られる歴史の叙述を目指してきました。しかし、本書は、……戦後の中国を残留婦人としてまた「小日本人」として生きてきた母と子によって共に語り合われ構築された「記憶の語り」であるという点で際だっています。それを支えた斎藤さんは、共に生きた戦後の歴史を母と子で聞き書きを行なうことによって、新たな「家族の歴史」を構築して欲しかったと言います。

――解説・蘭 信三より



 主要目次

第一章 望んで満洲へ
第二章 開拓団の生活
第三章 収容されて
第四章 老苑との暮らし
第五章 内モンゴルの生活
第六章 三十七年ぶりの里帰り
第七章 日本定住

 
 
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