2002.11.20 No.41
■■■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■■■■

                                        発行所 株式会社 皓星社
                                        編集長    佐藤 健太
                       info@libro-koseisha.co.jp
                             http://www.libro-koseisha.co.jp

━━ 目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●十一次元               和田 周(演劇組織「夜の樹」)

●新刊のご案内(ハンセン病叢書3点、91歳の性豪作家の変身譚など)

●近刊のご案内(ハンセン病叢書と北條民雄論)

●編集後記

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●十一次元               和田 周(演劇組織「夜の樹」)

ゴメス  (本を指し)なんの本だい?

老吸血鬼  人間どもの世界は、もしかしたら、十一の次元からできているの
ではないかという物理 学上の仮説を、馬鹿が手にとって読んでもわかるよう
に解説してある。

狼男  (手にとって読む)・・・。

ゴメス  十一の次元?

老吸血鬼  縦・横・高さにアインシュタインの時間を加えた四つの次元が人
間の棲む世界だ、というのがこれまでの奴らの常識だった。それ以外にもう七
つの次元が、実は、宇宙には畳み込まれているはずだというんだ。

ジキル博士  驚いたね。

ゴメス  畳み込まれているのか。

老吸血鬼  ああ、つまり、開かれていないんだ。開かれているのは、縦・横
・高さと時間だけだ。

三人  ・・・。

老吸血鬼  なぜ四つの次元しか開かれていないかというと、もともとこの十
一の次元は紐にくくられてきっちりと宇宙に畳み込まれていたんだ。ところが、
ビッグバンのときにそのうちの四本の紐だけがゆるんだお陰で、縦・横・高さ
と時間が人間どもの世界に出現したんだそうだ。いらい人間どもはその四つの
次元をやり繰りして、なんとか地味に今日まで生きのびてきたというわけだ。

           (「つたえてよフランケンシュタインに」2場より)

 この、狼男の手にとらせた「馬鹿が手にとって読んでもわかる」本は、無断
で借用したので、ネタ本を紹介しよう。ブライアン・グリーン著『エレガント
な宇宙』(草思社)である。ほんとうにわかる本で、ぼくなど、一般相対性理
論について、うまれて初めて、思わず「ア、解った!」ような気がしたほどだ。
世の中にはぼくていどの馬鹿がいちばん多いらしく、ベストセラーになった。
みんなで読めばコワくない。

 で、話の中身だが、ひとたびこの大言壮語を受け入れると、すごく元気にな
る。どれくらい元気になるか、夜の樹の事情にからめてご説明しよう。

 八年まえから、ワークショップというのを始めた。ぼくの台本が書き上がる
八月ごろまで、バラバラでいるのも淋しいから、週一回みんなで集まって、上
演の当てをつくらずに古い台本や人様の台本を読んだり立ったりしようという
趣旨だ。勉強会とか研究会というのもイジケていやだから、当節はやりのワー
クショップにしたのだ。

 四年目ぐらいから妙な迷路にはまり込んで、メチャクチャ面白いことになっ
た。稽古場での言葉が、後からついてくるようになったのである。仲間のまえ
で誰かが台詞を言ったり、動いたりする。見てる者は、それを言葉以前の表現
として受けとり、「あ、それ成り立つよ」とか「うん、とどく、とどく」と喜
んだり、「うーん」と受けとりそこねたりする。そんなことを面白さにかまけ
て続けていると、一晩に三つも四つも新しいことを見つけたりする。なにを見
つけたか、なにが新しいかは、後で喧々がくがく、言葉で埋めることもあるが、
その意味で、あくまでも言葉は後なのだ。

 二十年も芝居ばかり作っていてそのあげくに、毎週、一晩に三つも四つも稽
古場で新しいことを見つけられてたまるか!絶対ウソだ!とおっしゃるそのス
ジのプロがいるかもしれないが、本当なのだ。本当に本当なのだ!だから妙な
迷路にはまり込んだと、みんなで思っている。とにかく楽しくてしかたがない。

「よろしい。言ってることを真にうけよう。そのうえで結果を舞台で見せても
らおうじゃないか!さぞかし発見だらけの舞台をみせてくれるんだろうな。」
そう言う退屈な実証主義者に、ぼく等は心からお詫びを申し上げて、こう言い
たい。「なんでなんだろうね、あなた方を震撼させて、あなた方が口から肛門
までひっくり返るようなとびきりの舞台を見せてあげられないのは。」

 そこで、宇宙に畳み込まれた七つの次元の出番である。

「ぼく等が迷路にはまり込んで毎週見つけている工夫は、一体、畳み込まれた
どの次元にまぎれ込んで、積もり積もっているのかな?」

      2002年10月「つたえてよフランケンシュタインに」の稽古の後で

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■和田 周(わだ しゅう)
1940年、演劇組織「夜の樹」を結成。著作に戯曲集『蝿取り紙』(テアトロ)、
作品集『吸血鬼の咀嚼について』(夜の樹出版部)がある。

11月20日(本日!)〜同24日(日)にかけて「夜の樹」第19回公演「つたえて
よフランケンシュタインに」が、ザムザ阿佐ヶ谷(ラピュタ阿佐ヶ谷地下1階)
にて上演されます。作・演出ともに和田周さん。上演日程および台本は下記の
URLでご覧になれます。

 ☆「夜の樹」のすべてと「和田周戯曲館」
http://www.yorunoki.com  mailto:pim@yorunoki.com

☆つたえてよフランケンシュタインに 公演予告
「今夜、フランケンシュタインが来るよ!」モンスターたちの戦慄の夜
http://www.yorunoki.com/kouennyokoku.html

☆つたえてよフランケンシュタインに 上演台本
http://www1.u-netsurf.ne.jp/~mozu/Tutaeteyo%20F.html

☆ザムザ<ラピュタ阿佐ヶ谷
http://www.laputa-jp.com/f3.html

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●新刊のご案内

40号を配信して以来、号外ばかりが続き新刊のご案内が遅れてしまいました。
ひらにご容赦を。

◆鈴木時治画集 生きるあかし――ハンセン病療養所にて<ハンセン病叢書>
寺島萬里子 編
A5判変形・並製・60頁 定価2,500円+税 装丁 藤巻亮一
ISBN4-7744-0327-X C 0071

「私は心で絵を描く」(画集出版にあたって――鈴木時治)
ハンセン病療養所・栗生楽泉園で、指のない手に絵筆を固定してキャンバスに
向かう。76歳の画家・鈴木時治、初の画集。「生きるあかし」としての絵画に
詩篇と語りを添えて構成。
     ↓     ↓     ↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1028.html

11月24日(日)まで鈴木時治・油絵個展「生きるあかし」を開催中です。
 会場:アートサロン環  新潟市東出来島8-23 TEL 025-281-7252
    11時〜18時(24日は17時まで)
 主催:ハンセン病回復者と故郷・新潟を結ぶ会

画集に未収録の油絵も展示されているそうで、新潟での評判も上々です。

★新潟日報(2002年11月18日)朝刊「あーとぴっくす」に紹介記事
 「絵の根にあるみずみずしさ」(美術評論家・大倉宏氏)

★新潟日報(2002年11月20日)朝刊に紹介記事
 「伝わる純粋さ ハンセン病元患者 鈴木さん油絵個展」

お近くの方だけでなく遠方の方も、ぜひぜひお立ち寄りください。
新潟まで観に行けない方は、小社HPのWEBギャラリーへどうぞ。
     ↓     ↓     ↓
☆鈴木時治画廊(「ひまわり」「黒い犬」など油彩を数点アップ)
http://www.libro-koseisha.co.jp/TOP-Tokiji/tokiji.html

☆寺島萬里子写真集 病癒えても<皓星社ブックレット13>
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb913.html

◆歌とエッセイ 心ひたすら<ハンセン病叢書>
浅井あい 著(栗生楽泉園)
四六判・上製・312頁 定価2,000円+税 装丁 藤巻亮一
ISBN4-7744-0326-1 C 0095

16歳でハンセン病療養所に入所、園内で結婚。失明、夫の死などの苦難を乗り
越え紡がれた言葉の数々。1996年〜2001年の短歌とエッセイ10篇を収録。
     ↓     ↓     ↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1027.html

◆向日葵通り 田中美佐雄歌集<ハンセン病叢書>
田中美佐雄 著(栗生楽泉園)
四六判・上製・360頁 定価2,500円+税 装丁 藤巻亮一
ISBN4-7744-0325-3 C 0095

94歳をこえてなお毎日歌作に励む著者の歌集。昭和63年から平成14年にかけて
歌った膨大な作品群から精選。

(『向日葵通り』へリンクをはると、なぜか文字化けするので、申し訳ありま
せんがトップページからお入りください)

◆ハンセン病文学全集(第1期・全10巻)
第3巻(小説三)加賀乙彦責任編集
A5判・上製・446頁 定価4,800円+税 装丁 安野光雅
ISBN4-7744-0392-X C 0391

<収録作品>
冬 敏之 たね/渦/高原の療養所にて/埋もれる日々/その年の夏/
     長靴の泥/街の中で/ハンセン病療養所
島比呂志 林檎/奇妙な国/永田俊作/カロの位置/豊満中尉/生存宣言/
     玉手箱/海の沙

☆ハンセン病文学全集編集室
http://www.libro-koseisha.co.jp/top17/main17.html

☆WEB版パンフレット
http://www.libro-koseisha.co.jp/TOP-zenshu-pan/PANHU-MAIN.html


◆熊笹の尾根 創立七十周年記念写真集
栗生楽泉園入園者自治会・国立療養所栗生楽泉園 共編
B5判・上製・函入・128頁 定価5,000円+税 装丁 藤巻亮一
ISBN4-7744-0322-9 C0072

群馬県吾妻郡草津町にある栗生楽泉園(1932年開園)の歩みを振り返る記念写
真集。同園の基盤となった湯之沢部落(1887〜1941年)時代から戦前・戦後・
現代まで、隔離施設の実態を伝える史料価値の高い写真を多数収録。園内地図
(昭和10年、同13年、同31年)3点付。現代編の撮影は宮本成美。
     ↓     ↓     ↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1011.html

☆宮本成美写真館(水俣、多磨全生園の写真など)
http://members.edogawa.home.ne.jp/is-ryo/

☆国立療養所栗生楽泉園ホームページ
http://www.hosp.go.jp/~kuryu/

◆シンポジウム 差別のない社会をめざして――ハンセン病熊本判決から一年
 <皓星社ブックレット15> 
日本弁護士連合会他 編
A5判・並製・88頁 定価800円+税 装丁 藤林省三 
ISBN4-7744-0324-5 C0336 

2002年6月8日、ハンセン病元患者、医師、歴史家、ジャーナリスト、宗教家、
弁護士らが一堂に集まり、社会的差別と専門家の責任に焦点をあてたシンポジ
ウム。差別問題に共通する多様な視点が示された貴重な記録。 
     ↓     ↓     ↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb915.html

◆サクラン坊とイチゴ
宮 林太郎 著
四六判・セミフランス装・312頁 定価1,800円+税 装丁 宇野亜喜良
ISBN4-7744-0321-0 C 0093

ある朝、男が目覚めると絶世の美女になっていた……。それは女の欲望に対し
て魅力ある凶器だった。
カフカも仰天、91歳の性豪作家の「変身」譚。瑞々しいエロティシズムとエス
プリにみちた傑作小説。
     ↓     ↓     ↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1145.html

◆砂嵐 高田昭子詩集
四六判・並製・122頁 定価1,800円+税 装丁 藤巻亮一
ISBN4-7744-0323-7 C 0092

わたしは「生きる」ということの輪郭を、言葉によってなぞる人間、しかもそ
の片側の性だけを生きている。その片側の性の不均衡を、言葉によって支える
ために、わたしは詩を書いているのかもしれません。そしてその先にある「死」
の予習のために。――あとがきより 
     ↓     ↓     ↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1146.html

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●近刊のご案内

◆島村静雨全作品集 全三巻<ハンセン病叢書>
島村静雨 著(長島愛生園)
四六判・上製 装丁 藤巻亮一 12月初旬発売予定
定価4,900円+税(全3巻函セット、分売も可)
函セット ISBN4-7744-0354-7 C 0095

第一巻には『冬の旅』(橘香社、1955年)と『狂った季節の中で』(橘香社、
1955年)を収録。第二巻、第三巻には、生前の著者の構想の跡がみられる作品
集の原稿を収めた。第三巻には散文も5篇収録。

各巻分売
第一巻 初期詩集  184頁 定価1,500円+税 ISBN4-7744-0351-2 C 0095

第二巻 遺稿詩集1 296頁 定価1,800円+税 ISBN4-7744-0352-0 C 0095

第三巻 遺稿詩集2 216頁 定価1,600円+税 ISBN4-7744-0353-9 C 0095

◆吹雪と細雨――北條民雄・いのちの旅
清原 工 著
四六判・上製・268頁 定価2,600円+税 装丁 山崎 登
ISBN4-7744-0328-8 C 0095 12月初旬発売予定

「いのちの初夜」によって昭和の文壇に衝撃的なデビューを果たしたハンセン
病作家・北條民雄。夭折した作家の足跡を丹念に辿り、「いのちの原郷」を探
る長編評論。紀行文学としても秀逸な一冊。

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●編集後記

<ハンセン病叢書>のラインナップがだんだん充実してきました。『ハンセン
病文学全集』ともどもご期待ください。

今回は演劇組織「夜の樹」の和田周さんに原稿をお寄せいただきました。「夜
の樹」の大ファンである私は、今年も財布をやりくりして観に行きます。和田
さんによれば「B級ホラー路線の王道を狙う」とのことで、かつての傑作「吸
血鬼の咀嚼について」(私が初めて観た和田作品はこれだった)を思い出し、
いまからぞくぞくしております。

皆様もぜひ、阿佐ヶ谷まで足をお運びください。

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