2001.1.15 No12
■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
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◆◆ 皓┃星┃社┃通┃信┃◇2001年1月15日号No12 新年特大号◇
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隔週刊行(頻繁に増刊の予定ですが……)
                                    発行所 株式会社 皓星社
                  編集長    川尻 絵馬
                166-0004東京都杉並区阿佐谷南1-14-5
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【等幅フォント推奨】     http://www.libro-koseisha.co.jp
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新春特大号
【目 次】
 1.【書 評】
   杉山正樹『寺山修司・遊戯の人』は、情理そなえた一級品の
     編集者の“芸談”でもある        井家上隆幸
   ◎関連リンク
     【寺山修司を知るリンク】
     
 2.皓星社から
   ●皓星社ブックレット10、11刊行のお知らせ
   ●編集後記
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☆ あけましておめでとうございます。
2001年、皓星社通信12号目の発行です。新年らしく、特大号でお届
けいたします。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

☆ 新世紀巻頭は『噂の真相』連載のコラムでおなじみ、評論家井
家上隆幸さんの書評から。

毎日2冊以上のペースで本を読むという井家上さん、その中から選
んでいただいたのが『寺山修司・遊戯の人』(新潮社)です。

☆ ご本人もおっしゃるように贅沢な時代を生きてきたんですねえ。

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【書 評】
杉山正樹『寺山修司・遊戯の人』は、情理そなえた一級品の編集者
  の“芸談”でもある       
                         井家上隆幸
                         
                          
 東京に行こうよ東京に、行けば行ったでなんとかなるさ、という
歌が流行って青少年の家出がふえた、放送禁止だなんて騒いだちょ
っと後だったか、やっとのことで大学は出たものの、おりからの就
職難、ましてやアカである、どうしようもなく茫然としていたとき
に一筋の蜘蛛の糸、それにすがって流れついた田舎者が出版界の片
隅から見る世界は、才能と野心にあふれた人々ばかりで、東京は
〈人が人を喰って生きる街〉、オレは生きていけるのかと心萎えも
したが、帰るところはない、地図と住所録をたよりにほっつき歩い
ているうちに、ありがたいもので一人二人と輪が広がり、片岡義男
(当時はテディ片岡と名乗っていた)の紹介で「マンハント」の編
集者杉山正樹に出会った。

  一九六四年ころだったか。その縁で、田中小実昌、小鷹信光、紀
田順一郎、山下諭一、中田雅久……といった人たちと出会い、庄司
英樹(後の作家赤羽尭)に唆されて創刊したばかりの「平凡パンチ」
に原稿を書いた。

それが今の自分のはじまり――なんてわき道にそれちゃいけない。
本題は、その杉山正樹が上梓した『寺山修司・遊戯の人』(新潮社)
だ。

 寺山修司については、巻末の主要参考文献にあるように、さまざ
まな人が"評伝"まがいの本を書いているけれども、近年は「寺山修
司は嘘と剽窃の人、オリジナリティはかけらもない」といった"バ
クロ"ものが多く、ぼくは「スキャンダラスであればいい」といっ
たさもしい心底におぞましさを感じていたのだが、杉山正樹は、そ
うした「嘘と剽窃の人」という"虚像"から寺山修司を救い出し、そ
の真実のすがたは、という。

〔極言すれば、かれは自己を告白するためではなく、嘘をつくため
に短歌や俳句を作りはじめたのです。私という主体の内部から泉の
水のようにあふれ出る感情をありのまま書きとめるためではなく、
ましてや日常生活の記録でもなく、こうありたいと望む別世界を構
築して、その虚構世界で自由に想像力を羽ばたかせるところに主眼
があった。かれは〈ありのまま〉でなく、ありうべき虚構を造るた
め、自分の内部にひろがる空洞の中心にひとつの工房をしつらえ…
…あらゆる先行作品から自分の気に入った詞句や台詞や映像をかき
集めたのです。そうやって収集した言葉やイメージのほおが、かれ
にとっては目の前で展開する現実よりもはるかに真実と感じられる
のだから、それを引用し転化して自作とする行為に罪悪感などなか
った。それが寺山独特の個性を生む、大きな原因になったのではな
いでしょうか。……かれがあくまで個に退行せずにうたったため、
たとえば《マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国は
ありや》が、やがて元軍人から現代の若者まで、それぞれ自分の世
界をこの一首に託す普遍的な名歌となってゆく……寺山の創作法は
単に先行する作品を引用して合成転化するだけではなく、その瞬間、
電光石火、天啓が閃くように表現の〈原型〉にまで深く到達してい
たため、まるで依代さながら、私情をはるかに超えた共感をあつめ
ることができた。そこにこそ、寺山修司の他に例を見ない独自性が
あります。既発表の作品はすべて、詞句であれ映像であれ方法であ
れ、人類によって共有されるものだ。引用して転化することで、原
典が持っていたオリジナリティをさらに増幅し昇華できる。そこに
自分の独創が働くのだというのが、かれの揺るがぬ信念となったの
でした〕

 だからこそ寺山修司の遺した仕事は、八三年四月、四七歳で逝っ
てから十七年後の今も若者たちを惹きつけているのだ、と。

寺山修司とほぼ同年代、そのきらめくような才能をただただ羨望の
目で眺めていたぼくにも、短歌雑誌の編集者としてこの稀有な才能
の誕生に立会い、以後、冒頭の"覗き事件"など、いってみれば寺山
修司の"曲がり角"に立ち会ってきた杉山正樹の言葉はストンと胸に
落ちる。

  と同時に、杉山正樹の"戦後史"(もちろん寺山修司のそれも)ぼ
くのそれと重なりあい、たとえば小田久郎『戦後詩壇私史』(新潮
社)を併読しながら、杉山正樹と知り合ったころの記憶をまさぐり、
自分の編集者時代がいかに豊穣なものだったかを実感しているのだ。

◎関連リンク
【寺山修司を知るリンク】
略歴・作品紹介
http://www.osk.3web.ne.jp/~nanten/syowa/terayama/index.html
http://www.asahi-net.or.jp/~cw5t-stu/TERAYAMA/terayama.html

リンク集@大久保文彦さん
http://member.nifty.ne.jp/fohkubo/sajiki.htm

万有引力関係リンク
http://www.cyborg.ne.jp/~simizzy/bannyuu%20link.html

TERAYAMA LINKS
http://www.asahi-net.or.jp/~cw5t-stu/TERAYAMA/link.html
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☆ 井家上さんは、雑誌書評のほか、『量書狂読』シリーズでおな
じみですが、このシリーズ開始以前の原稿を集めた『ここから始ま
る量書狂読』(2000年8月)があります。この本は、井家上さんの
大作『20世紀冒険小説読本』の出版記念会の出席者のみに配られた
幻の本です。『Title』2月号「毒書計画」にも紹介されています。
いわく、「世間をブッタ斬る凄みがどろり」。
 限定版のこの本を、著者のご好意でこのWEBページからお申し
込みの人に限りおわかちします。

◎『ここから始まる量書狂読』ご注文はこちらから↓
 http://www.libro-koseisha.co.jp/

 待望のシリーズ続編『またまた量書狂読』は、当社から、今春刊
行の予定です。ご期待ください。
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 ☆ この話題についてのご意見ご感想、情報をぜひ掲示板に!
http://www.libro-koseisha.co.jp/top09/top09.html

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皓星社から
●皓星社ブックレット10、11刊行のお知らせ
 2001年1月12日熊本地裁の、「らい予防法」違憲国家賠償請求訴
 訟が結審。判決は5月11日に出ます!

ハンセン国賠訴訟の国側代理人(訟務検事)のうち、
中心的役割を担うS氏は元裁判官。
強制連行された中国人が決起した結果、
多数の被害者が出た花岡事件(高裁で歴史的な和解成立)において、
証拠調べもせずに除斥を理由に
原告側敗訴判決を言い渡した一審東京地裁の右陪席です。
現在の司法の問題点はこういうところにあるのではないでしょうか。

と報告されています。
http://homepage1.nifty.com/lawyer-k-koga/newpage3-N.htm

 また、東京地裁における裁判では、元患者側(原告)に理解を示
し、草津の特別病室跡(病室とは名ばかりで実は患者監禁施設)の
検証では「立ち去りがたい思いがする」とのべた判事が、法務省の
局長に転出した。栄転であるが、地裁の判事が本省の局長になるの
は、きわめて異例だという。

【皓星社ブックレット10】
『証人調書(2)・「らい予防法国賠訴訟」和泉眞藏証言』
ハンセン病国家賠償請求訴訟弁護団 編
A5 約180頁 並製 定価800円+税
2001年2月上旬刊行

お待たせしました。
ブックレット7『訴状「らい予防法人権侵害謝罪・国家賠償請求訴
訟」』、ブックレット9『証人調書(1)「らい予防法国賠訴訟」
大谷藤郎証言』につづくハンセン病国賠償裁判シリーズ第3弾がい
よいよ刊行です!

今回は、1999年6月17日・12月17日に熊本地裁で行われた和泉眞藏
証言を取り上げます。和泉眞藏氏が医師の立場、研究者の立場から
らい予防法」廃止の医学的根拠を証言。その全文と意見書を裁判
所記録のまま収録しました。

シリーズ第4弾のブックレット11『証人調書(3)・「らい予防法国
賠訴訟」犀川一夫証言』も来月2月に刊行決定。
 今後も、裁判の進展に合わせて順次刊行していきます。

 裁判の行方を見守って、参りましょう。

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◎皓星社ブックレットについてはこちらをご覧ください↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/
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皆様のご意見ご感想、情報をぜひ掲示板に!
http://www.libro-koseisha.co.jp/top09/top09.html
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【編集後記】

● 井家上隆幸さんの書評といえば、雑誌などではおなじみですが、
メールマガジンという媒体に登場するのは、実は今回が初めてなの
です。

 寺山修司と聞いて思い出すのが、子どものころの自宅の書棚。父
の蔵書の中の、子供心にも怪しげな本たち。横尾忠則氏による過激
なカバーイラストのこれらの本を、遊びに来るお友だちに見られま
いと、小学校から帰るやいなや、本棚の奥に隠した思い出がありま
す。

「えまちゃんちにヘンな本がある」なんてウワサが立ったら、仲間
はずれにされてしまいます。

 今考えると、子どもの世界って超キビシイですよね。友達と一緒
のときは、ミルクとウエファスで育っているふりをして、トイレで
ウ○○もしませんでした。

● 次号は、谺雄二さんによる「ハンセン病とともに」を掲載しま
す。
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